アメリカ社会にへイトスピーチ蔓延、攻撃的トランプ発言が触発か
敵意の多くは、移民やアフリカ系米国人その他のグループ、典型的には民主党ヒラリー・クリントン候補を支持する人々に対して向けられているものの、共和党員もトゲのある言葉や敵意に直面している。
過激主義に関する議論の多くはいわゆる「オルタナ右翼(Alt-Right)」に注目している。トランプ候補の選挙運動に共感する政治的な暗部から浮上してきた、白人ナショナリスト、反ユダヤ、反移民主義者による緩やかに結びついた運動だ。
メキシコ国境に壁を築く、不法移民数百万人を強制送還する、テロとの関係がないかムスリムを厳しく取り調べるといったトランプ氏の公約は、オルタナ右翼のコミュニティを活気づけてきた。
マイケル・ヒル氏は、トランプ候補のこうした表現が、米国における白人キリスト教徒ら多数派の地位が侵食されるというオルタナ右翼の懸念を正当化したと指摘する。ヒル氏は白人至上主義者、反ユダヤ主義者、外国人嫌いを自称し、独立した「白人の国」の創設をめざす「南部ナショナリスト」グループである「南部同盟」のリーダーである。
「トランプ氏の選挙運動を取り巻く全般的な政治環境は、私たちだけでなく、他の右翼団体にとっても非常に有意義だ」とヒル氏は言う。
これに似たナショナリスト的な底流は、ロシアから日本、英国に至る他の諸国でも発生している。この夏、英国の欧州連合(EU)離脱をめぐる議論がヒートアップするなかで、EU残留派の国会議員ジョー・コックス氏が路上で銃撃を受け、刃物で刺された。トーマス・メア容疑者は、「裏切り者に死を、英国に自由を」と主張していた。
米国では、敵意にあふれる政治的な表現、破壊行為、暴力に関するニュースが定期的に報じられている。
ミシシッピ州では、黒人教会が放火され、「トランプに投票を」と落書きされた。ノースカロライナ州では共和党の郡事務所が炎上し、近所のビルには「ナチ共和党員は街を出て行け」とスプレーでペイントされていた。オハイオ州では民主党の選挙事務所に大量の肥料が投棄された。
ユタ州では中庭にトランプ候補支持のプラカードを掲示していた男性が、車に「KKK」の落書きを受けた。ウィスコンシン州では、大学フットボールの試合で、首に絞首刑の縄をかけられたバラク・オバマ氏のマスクを着用するファンが見られた。
過激派が主流に
トランプ氏の立場は「白人からの資産略奪にブレーキをかける」というオルタナ右翼の目標と合致していると白人ナショナリストのジャレド・テイラー氏は言う。彼が運営するウェブサイト「アメリカン・ルネッサンス」は、オルタナ右翼運動のなかで人気を博している。
だがテイラー氏によれば、メディアは「トランプ氏の信用を落とそうとして」オルタナ右翼のあいだでトランプ氏が支持されていることを誇張しているという。
トランプ氏は、政治的右翼のうち過激な部分について非難することを躊躇(ちゅうちょ)しているとして、民主党及び共和党の一部から批判されている。だが先週、KKKの代表的な機関紙がトランプ支持の記事を1面に掲げたときは、さすがにトランプ陣営も「ひどく不快な」記事であるとして、これを拒否する声明を発表した。