最新記事

アメリカ社会

アメリカ社会にへイトスピーチ蔓延、攻撃的トランプ発言が触発か

2016年11月11日(金)19時07分

「KKK」の文字がスプレーで落書きされた電柱。インディアナ州で11月1日。  REUTERS/Peter Eisler

 カレン・ピーターズさんは、勤労者世帯が中心の静穏な住宅街で人生の大半を過ごしてきた。こぎれいに整えられた自宅前の歩道に、黒のスプレーで書かれた文字は、筆跡こそ乱暴な走り書きだったが、侮辱のメッセージは明白だった。

 「KKK ビッチ」(白人至上主義の秘密結社クー・クラックス・クラン(KKK)の略称と雌犬の意)

こうした人種的偏見に満ちた落書きは、10月半ばから、インディアナ州の小都市ココモの自動車、家屋、電柱などに出現している。ピーターズさんのような被害者の多くはアフリカ系米国人だが、そうでない人もいる。多くの人は芝生に、今週の大統領選挙で民主党を支持するプラカードを立てていた。複数の家庭のカードには悪名高き「KKK」のイニシャルが吹き付けられていた。

 「これは政治的な問題だと思う。手に負えなくなりつつある」とピーターズさんは言う。大統領選挙における対立の過熱、それも特に共和党ドナルド・トランプ候補の攻撃的な移民排斥主義の論調が、過激主義者を大胆にさせているのだと彼女は考えている。

「(候補者が)無教養なことを口にしていると、たぶん他の人々もそういうことをやっても問題ないのだと考える。本当に悲しいことだ。私たちの国は逆戻りしつつあるように思う」

こうした攻撃について、警察は容疑者を特定していない。市長や地元の党職員を含む民主党関係者は、政治的な動機による犯罪だと考えている。地元の共和党関係者はこれに懐疑的で、無知なチンピラのしわざであり、共和党とは無関係であると主張する。

 米国各地で、煽動的で対決色の強い政治的論調が市民どうしの会話にまで染みこんできており、有権者を分断している。

 その影響を数値化することは難しい。政治的動機による犯罪や煽動的な言論を把握するような全国規模のデータは存在しないからだ。

 だが、無党派のピュー・リサーチ・センターの調査によれば、政治的な敵対者を中傷することが「適切な場合もある」と考える有権者の比率は、3月には30%だったのが、10月には43%にまで上昇している。どちらの党を支持する有権者でも、他党について「非常に否定的な」見解を持っている人が過半数を超えている。これは1992年の調査開始以来、初めての結果だ。政府に対する不信感は過去最悪のレベルで推移している。

「こうした指標はグループ間の対立が高まっていることを示しており、品のない言葉のやり取りから軽度の攻撃、さらには非常に過激な行動に至るまで、あらゆる事象につながりかねない」。カリフォルニア州立大学の憎悪・過激主義研究センターのブライアン・レビン所長はそう分析する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中