ドゥテルテ大統領、虚偽の数字でフィリピン「麻薬戦争」先導か
数字のプレッシャー
フィリピン法執行機関のある幹部は、ドゥテルテ氏の「恣意的な」数字のために警察や政府当局者はプレッシャーを感じているという。
匿名を条件に取材に応じたこの幹部は、「問題は、大統領が何か言うたびに、それがすでに何らかの政策表明になってしまっているという点だ」と言う。「とはいえ、われわれはそれに従わなければならない」
この高官が一例として指摘するのは、いわゆる「自首」手続きを通じて当局に麻薬使用者や密売人として登録された、過去3カ月で70万人以上に及ぶ人々だ。だが、DDB報告書に記載された麻薬使用者数に合わせるために、少なくとも180万人の「自首者」リストを作成することが当局に期待されているという。
「われわれが、いま大変な思いをしている理由はそこにある。(それだけのリストを)作らなければならない」と彼は言う。「しかし、どれだけ頑張っても、180万人には到底届かない」
PDEAのビラヌエバ氏は、麻薬問題に対する大統領の評価は妥当であり、彼自身は何のプレッシャーも感じていないという。
ドゥテルテ大統領は「非常に大きな問題なのだと国民に知らせるために誇張しているだけだ」と同氏は言う。「その趣旨は、問題を解決するためにそして、気まぐれな麻薬使用者が慢性的な麻薬使用者になっていかないよう、懸命に努力しなければならない、ということだ」
薬物中毒治療の専門家によれば、ドゥテルテ大統領や当局者の発言は、麻薬使用者と重度の麻薬常用者を区別していないだけでなく、「シャブ」使用者とマリファナ使用者の区別もないと指摘する。
シャブは、攻撃性や精神疾患を含む副作用の強い、習慣性の高い覚醒剤だ。
「リスク特性や有害性という点で、シャブとマリファナはまったく異なる物質だ」と語るのは、アデレード大学薬物アルコール治療研究センターのロバート・アリ所長。「シャブのほうが中毒になるリスクが高いし、より広範囲の身体的・精神的なダメージと関連している」と世界保健機構にも協力している同所長は説明する。
アリ所長によれば、フィリピンでは実際に麻薬乱用が問題になっているとはいえ、虚偽データに基づいて実効性ある国家的な対応策を考案することは難しい。「糖尿病であれ麻薬であれ、公衆衛生において、手持ちのリソースをうまく使うには、それがもたらす損害による負担を把握する必要がある」