最新記事

フィリピン

ドゥテルテ大統領、虚偽の数字でフィリピン「麻薬戦争」先導か

2016年10月28日(金)10時55分

 だが、麻薬に関する政策・調査を主管する大統領府危険薬物委員会(DDB)が行った2015年の調査によれば、フィリピンの麻薬使用者数はその半分にも満たなかった。

 また、ドゥテルテ大統領はすべての麻薬使用者を「中毒者」と呼ぶが、DDBの調査で確認された180万人の利用者のうち約3分の1は、過去13カ月に1度しか麻薬を使っていなかった。

 また、犯罪率の高さなどの社会問題の原因として当局者が挙げることの多い、習慣性の高い覚醒剤である結晶メタンフェタミン、いわゆる「シャブ」を使った者は、そのうち半分以下の86万人であり、大半はマリファナ利用者だった。

 PDEAのビラヌエバ氏は、麻薬に対する人々の問題意識を高めている以上、もしドゥテルテ大統領が麻薬使用者の数を「過大評価」しているとしても気にしない、と語っている。

 ロイターが取材した大統領広報室の担当者は、政府によるもう1つの主張、「フィリピンにおける重大犯罪の75%は麻薬絡み」を裏付けるデータの出所を明らかにできなかった。

 警察や政府上層部はこうした論法を駆使して、麻薬使用者や密売人に対する厳しい措置を正当化している。彼らは、麻薬撲滅作戦が開始されて以来犯罪が減少していることが、こうした措置の正しさを裏付けていると主張する。

 虚偽の数値は、現実の世界ではもう1つの意味を持つ。たとえば、「フィリピンにおける麻薬需要を根絶するためにこれだけの人間を摘発の対象とすべきである」と政府が発表する人数は、この数字によって決定される。

 これが、警察による「容疑者リスト」の作成につながる。このリストには麻薬関連容疑者の氏名が記されており、そのうち何百人もが、警察による摘発作戦のなかで、あるいは正体不明の暗殺者によって射殺されている。

 数字を楯に取ったドゥテルテ大統領の主張は、今も政策を動かしている。

 9月、同大統領は月末までに「中毒者」数は400万人に増えるだろうと述べ、「麻薬戦争」をさらに6カ月、つまり2017年6月まで延長すると宣言。この声明に続いて、9月30日には自らをヒトラーになぞらえるかのように、300万人の麻薬中毒者を「抹殺できれば幸せ」と発言している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中