レジリエンス(逆境力)は半世紀以上前から注目されてきた
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<昨今注目を集める概念「レジリエンス(逆境力)」だが、実は半世紀以上も前から研究されている――。不安定でストレスの多い時代を生き抜くための「打たれ強さ」の身につけ方(1)>
ここ数年、ビジネスの世界で関心を集めている概念がある。「resilience(レジリエンス)」だ。日本語では「復活力」や「逆境力」、あるいは「折れない心」などと訳されることもあるが、そのままカタカナで「レジリエンス」と表記されることも多い。ひと言では表現しにくい、新しい言葉だからだ。
例を挙げれば、日本で2013年に刊行された書籍のタイトルは『レジリエンス 復活力――あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か』。2014年にNHKの「クローズアップ現代」で取り上げられた際は、「"折れない心"の育て方 ~『レジリエンス』を知っていますか?~」だった。
復活力、逆境力、折れない心......どう呼ぶにせよ、馴染みのなかったこの概念がなぜ今、注目されているのか。イギリスのキャリア・ストラテジストであるジョン・リーズは、人々が自然災害を強く意識するようになったことや、情報過多と景気低迷の時代のなかで多くの人が不安定でストレスの多い労働環境に追いやられていることを、理由として挙げている。
であれば気になるのは、どうすればレジリエンスを身につけられるのか、だろう。リーズによれば、レジリエンスが生まれつき備わっている人もいるが、後天的に獲得することもできる。「レジリエンスは性格ではなくアプローチであり、脳のギアを切り替えるための方法である。気質ではなくプロセスだ」と、彼は説明する。
リーズはこのたび、レジリエンスを習得・開発・強化する方法を伝えるべく、『何があっても打たれ強い自分をつくる 逆境力の秘密50』(関根光宏訳、CCCメディアハウス)を上梓した。50の項目にまとめられた、「困難な状況を上手に切り抜けるだけでなく、力強く成長する」ための実践的な1冊だ。
ここでは本書から一部を抜粋し、4回に分けて掲載する。第1回は「はじめに」より。レジリエンスは急に注目されはじめた概念だと思われるかもしれないが、実は、もともとは物理学用語であり、半世紀以上も前から心理学分野などで研究されてきたという。
『何があっても打たれ強い自分をつくる
逆境力の秘密50』
ジョン・リーズ 著
関根光宏 訳
CCCメディアハウス
レジリエンス(逆境力)とは何か?
「誰もが経験したことがあり、私にも覚えがあるが、自分自身に関することや人生の意味についての発見というのは、科学的発見とは違って、まったく新しい、思いもよらなかった何かからもたらされるわけではない。むしろ、本当は前々からわかっていたのに、あらためてはっきりと認識した何かである。ただ、それまではきちんと形にしたくなかったので、とうにわかっていながら、わからないと思い込んでいただけだ」 W・H・オーデン『道しるべ』
何らかの力を外界から受けた場合、それにどう反応するかは人によってさまざまだ。誰かから軽くひじ鉄をくらっただけで自尊心が傷つき、仕事の成績が一気に低下してしまう人もいれば、数々の嵐に遭遇しても相変わらず有能ぶりを発揮し、健康で幸福な生活を満喫している人もいる。大きな重圧がのしかかったとき、ある人は挫折し、ある人はうまく対処し、ある人は上手に切り抜けるだけでなく力強く成長する。これがレジリエンスだ。レジリエンスの原動力は何か、レジリエンスが欠けている人がいるのはなぜか、レジリエンスは強化できるのか。私たちはそれを知りたい。
「レジリエンス」とは、もともとは物質の性質をあらわす物理学の用語だ。物質に力を加えて曲げたり、圧力や負荷をかけたりしたとき、その物質が元の形に戻る速度を左右する力、すなわち「外力によるゆがみを跳ね返す力」がレジリエンスである。レジリエンスという性質によって、物質の弾性や応力(ストレス)に対する反応が決まる。この定義を覚えておくと役に立つ。というのも、人におけるレジリエンスについて考えるとき、私たちはいつもストレスをネガティブにとらえてしまうからだ。だが、物理学の世界でのストレスは、ばねやカンチレバー構造 [一端を固定し、他端を自由にした梁構造] の橋などに有用な力である。同じように、人も外部からのストレスによって生産性の向上を経験することがある。締め切りの圧力などがその好例だ。