レジリエンス(逆境力)は半世紀以上前から注目されてきた
アンドリュー・ゾッリとアン・マリー・ヒーリーは、共著書『レジリエンス 復活力――あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か』(ダイヤモンド社)のなかで、レジリエンスについて、「劇的に変化する状況に直面しても、システム、企業、または人が、その目的の主眼を見失うことなく本来の姿を保つ能力」という包括的な定義を提唱している。この「目的の主眼を見失うことなく本来の姿を保つ」という部分から、レジリエンスとは、物事を切り抜けてうまく対処する能力以上の何かであることがわかる。より健全な平衡状態に到達すべく成長する能力とでも言えるだろうか。
人におけるレジリエンスとは、立ち直る能力を意味する。ビジネスで言うなら、危機的な局面に陥ったのち、通常業務を再開する能力ということになる。短期間の事柄に用いられることもある。失望したり自分を否定されたりしたあとに「魔力」が復活する、というような場合だ。このほか、より深いレベルで自尊心と目的意識を取り戻すことを意味する場合もある。要するに、健康で幸福な生活とその持続を脅かすあらゆる出来事――人生の道のりの紆余曲折に対応する能力がレジリエンスだ。こうした出来事には、確実に起こるとは限らないこと(失業による仕事や地位の喪失など)もあれば、絶対に避けて通れないこと(加齢、健康状態の悪化、死別)もある。
レジリエンスはタフな精神とは違うが、両者には密接な関係がある。タフな精神とは、決断力や意志の強さのような性格をも包括する概念であり、ときに他者の目を通して物事を見ようとしないことをも意味する。だがレジリエンスは、おとなしい人にも押しの強い人にも同じように備わるものだ。
レジリエンスという概念はどのように広まったか?
「レジリエンス――個人、コミュニティまたはシステムが、適正な水準の機能、構造、アイデンティティを維持するために適応する能力」 英国内閣府、2011年3月
レジリエンスは、心理学でも半世紀以上前から注目されてきた。初期の研究では、第二次世界大戦で難民となった子供たちについて、その後の人生の追跡調査が行われた。なかにはホロコーストを生き抜いた子供たちもいた。心理学者たちが不思議に思ったのは、情緒的に安定した、目的意識のある生活にすぐになじんだ子供もいれば、そうした子供たちの兄弟姉妹も含めて、心の傷を抱えたまま成長する子供もいたことだった。そのため、初期の研究では子供の発達に大きな焦点が当てられたが、のちの研究では、人生を混乱に陥れる事件や出来事に対する成人の反応へと関心が移っていった。