インドネシア、中国との緊張高まる南シナ海南端で大規模演習
インドネシア政府は歴史的に南シナ海の領有権争いでは中立的な立場を維持。東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国で紛争当事国となっているフィリピン、ベトナム両国と、中国とのあいだで緩衝国としての役割を果たしてきた。
「ASEANの総合的な強みは、インドネシアが外交上の仲介役を買って出てきたことに大いに依存している。だからこそ、われわれはそのぐらつきを目にしているのだ」。シドニーに拠点を置く、ローウィ国際政策研究所のユアン・グラハム氏は指摘する。
流動的な状況
インドネシアの軍事演習以前からも、一部の国々が従来の立場を強く主張したり、中国寄りになったりするなか、南シナ海をめぐる現状に対する疑念が高まっていたと外交官やアナリストは指摘する。
シンガポールと中国のあからさまな舌戦や、ベトナムが今週米軍艦2隻のカムラン海軍基地へ寄港を許したことは、フィリピンやマレーシアによる親中国的な動きとは対照的だ。
「とても流動的な状況に現在直面している」とシンガポールにある東南アジア研究所(ISEAS)の南シナ海問題専門家、イアン・ストレイ氏は指摘する。
「一部の国が一貫した方針を効果的に示す行動を取っている一方、別の国々は中国にさらなる敬意を払い、その前で転がったり、腹をさすられるのを待ったりしている」
フィリピンのドゥテルテ大統領が示す米国に対する敵意と長年の米比軍事同盟への疑念が、長期的な先行き不安を助長しているとストレイ氏や他のアナリストは指摘する。
南シナ海で初の合同訓練を先月行った中国とロシアが、より密接な安全保障関係を築く可能性も、不安を助長する要因となっている。
「間違ってはいけない。ドゥテルテ大統領が自らの言葉を実行に移すならば、それは南シナ海問題の全般的な力学だけでなく、東南アジア全域にわたる幅広い戦略的な前提を変える可能性がある」とストレイ氏は指摘する。
香港の嶺南大学で中国本土の安全保障を専門に研究する張泊匯氏は、ドゥテルテ大統領の米国離れに、中国がすぐに付け込むかもしれないと語る。
「中国エリート層の一部は、これを中国への神の恵みとみている。大きな変化の可能性を示している」と張氏は話す。
(Eveline Danubrata記者 翻訳:高橋浩祐 編集:下郡美紀)