最新記事

イギリス

前進できない野党の憂鬱:コービン労働党首再選

2016年10月5日(水)17時30分
ブレイディみかこ

コービンとその陣営が抱える問題

 「こんなことを書くと、「ブレア派に転身した」とか「右翼」とか言われてしまうのだろうが」とくどいほど前置きしながら、オーウェン・ジョーンズはコービンとその陣営を批判する。コービンがネットのソーシャル・メディアのみを信じすぎ、はるかに多くの人々が見ているテレビなどのメディアに出て肝心な時に発言しようとしないこと。反緊縮を謳っていたはずなのに、影の財相ジョン・マクドネルが「財政均衡だいじ」と言い出し、何がしたいのかよく見えなくなってきたこと(トマ・ピケティとデヴィッド・ブランチフラワーは労働党の経済アドバイザーをやめている)。若者だけの支持を狙い過ぎ、中高年に支持される政策を打ち出さないこと。北部の労働党支持者たちがEU離脱派に回った事実を深刻に受け止めていないこと。等々、書き連ねてある。

 (とは言え、個人的にもっとも脱力したのは、リバプールで行われていた党大会会場の警備が手配されてなかったことが直前になって判明し、早急に手配しなければ警察が会場を閉鎖すると報道された時だった。これはもう、「運営」以前の問題である)

 また、コービン支持者たちの悪評もいつまでたっても収まらない。コービン支持者は奇妙な陣営だ。きらきら瞳を輝かせた理想に燃えるインテリジェントで優秀な若者の集団、と言われるかと思えば、一方では少しでも意見の違う者や、コービンに反対する者にはツイッターで総攻撃を浴びせたり、電話で嫌がらせをしたりする、ミリタントな集団とも言われる。7月には40人の労働党女性議員たちが「レイプや死の脅迫、車を破壊されたり、窓から煉瓦を投げ入れられた」として、特に女性に対する虐待行為をやめるように自分の支持者たちに呼び掛けてほしいとコービンに書面で要求していた。

brady1.jpg

ブライトンの街にもこの落書きが複数出現。額には「EU」の落書きON落書き

それでもコービンは勝つ

 オーウェン・ジョーンズは、批判しながらも、今回もコービンに投票したと発言している。いまは再び気を取り直したようにコービンの援護射撃をしているが、彼が抱えていた疑念は本当に消えたのだろうか?

 一方、反コービン派が抱える最大の問題は、彼らにはコービンに勝てるようなオルタナティヴな党首候補も政策もないということだ(コービン陣営の政策がミリバンド時代のそれと似てきている以上、両者の政策は本人たちが言うほど違わない)。

 とりあえず、現在の労働党内部ではコービンは無敵なのだ。だから何度議員たちがクーデターを起こし、党首選をやっても彼が勝つ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

スペインに緊急事態宣言、大規模停電で 原因特定でき

ワールド

ロシア、5月8から3日間の停戦を宣言 ウクライナ懐

ワールド

パキスタン国防相「インドによる侵攻差し迫る」、 カ

ワールド

BRICS外相会合、トランプ関税の対応協議 共同声
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 8
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    【クイズ】米俳優が激白した、バットマンを演じる上…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中