「キンドル読み放題」の隠れた(けれども大きな)メリット
逆に、大手出版社からアマゾン・パブリッシングに移籍する作家もいる。O.J.シンプソンの元妻殺害事件で主席検察官を務めたマーシャ・クラークは、検事を辞めた後にミステリー作家に転じ、大手出版社のアシェットから犯罪小説を出版した。4年間で6冊という人気シリーズだったが、クラークはその後「Thomas & Mercer」に移籍して今年新たに別のシリーズを開始している。
同じアシェットのSF・ファンタジー部門であるOrbitから人気シリーズを出していたレイチェル・アーロンは、アマゾン・パブリッシングではなく自費出版に切り替えて、Kindle Unlimitedで新シリーズを提供している。
アマゾン・パブリッシングや自費出版という形態でKindle Unlimitedに作品をリストしていても、クラークやアーロンはアマチュアではない。ちゃんと文芸エージェントがついているプロであり、作品の完成度も高い。アーロンの「Heartstrikers」の第一巻『Nice Dragons Finish Last』のオーディオブック版は、Audio Publishers Association (APA)が優秀なオーディオブック作品に与える「Audi賞」も受賞している。
文芸の分野はまだ遅れているが、SF・ファンタジー、YAファンタジー、ミステリー、スリラー、ロマンスといった分野では、「アマゾン・パブリッシングの作品」や「自費出版の作品」に対する評価も高まりつつある。
日本の洋書ファンにとっては、使いこなせば絶対にお得なサービスだ。
【参考記事】「世界最大の書店」がなくなる日
では、作家サイドのデメリットはどうだろうか? Kindle Unlimitedは、売れっ子ではない作家にとってはかえって得だという。
トップクラスの作家の場合、大手出版社はPRに力を入れるし、書店で平積みにもしてもらえる。だが、そうでない作家はなかなか読者に見つけてもらえない。Kindle Unlimitedにリストアップされると、読者の目に触れ、ランキングも上がる。ただでPRしてもらっているようなものだ。
そしてKindle Unlimitedの場合には、読者が読んだページに応じて支払いがある。情報投稿サイト「The Winnower」で紹介されている例では、定価2.99ドルの作品を売った場合の印税2ドルに比べ、Unlimitedでの支払いのほうが0.68ドル高かったという。先に出てきたレイチェル・アーロンも同趣旨のブログ記事を書いている。
刊行した作品がすぐに古本屋で販売される日本の場合、読者が「本」という媒体を買っても印税が入ってこないこともある。日本の作家の場合、Kindle Unlimitedで読者が読んでくれた方がお得ということになる。