アメリカの外交政策で攻守交代が起きた
従来の大統領選からすれば、驚くべき変化だ。作家のノア・ゴードンが14年にアトランティック誌で指摘した言葉を借りれば、「この40年近く、世論調査を見る限り、米国民は国家安全保障や外交、軍事面で共和党を信頼してきた」からだ。
ところが今や、共和党の外交関係者はトランプを支持していない。それどころか、スコウクロフト元大統領補佐官やアーミテージ元国務副長官といった共和党の外交政策の重鎮が続々とクリントン支持に動いている。
そんなクリントンにも、外交政策での弱みがないわけではない。国務長官時代、リビア東部のベンガジで起きた米領事館襲撃事件での不手際や、私用メール問題がそうだ。
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ただ、多くの共和党員だけでなく、国家安全保障に関わる政策決定者らにとって、こうした問題はクリントン不支持の理由にはならない。
むしろ、孤立主義を公約し、イスラム教徒を非難し、NATO加盟国に対して防衛義務を果たさないと発言するトランプに対して、共和党員は離れていくばかりだ。
トランプは政治経験がないばかりかモラルも皆無。第二次大戦後のどの大統領候補よりもアメリカの安全保障上、未曾有の脅威になるかもしれない。外交専門家からは、建国史上最悪の候補と見なされる始末だ。
ただ、中国はトランプの勝利に期待しているらしい。クリントンは国務長官時代、人権についてやかましかったからだ。中国の指導者なら、トランプにでも務まるかもしれないが。
[2016年8月 9日号掲載]