中国空海軍とも強化――習政権ジレンマの裏返し
ところが今では、「敵」は日本だけでなく、南シナ海で「航行の自由」を主張して、中国に言わせれば「軍事行動」を行なっているアメリカだ。アメリカ系の商品ボイコットを訴える抗議運動が始まっているが、これは危険だ。中米が「新型大国関係」として世界を君臨するという習近平政権の外交スローガンもまた、メンツ丸つぶれになるからである。
フィリピンの新大統領が親中路線を翻(ひるがえ)す
かてて加えて、中国が致命的な打撃を受ける事態が発生した。
6月30日に就任したドゥテルテ大統領は、就任式の後の閣議で、「フィリピンに有利な判決が出ても、中国とは話し合いで解決する」としていたのだが、中国の王毅外相のあまりに高圧的な態度に、「中国に譲歩しない姿勢」を表明したのだ。
中国大陸以外の中文ネット情報によれば、7月19日、フィリピンのヤサイ外相がフィリピンの「ABS-CBN」ニュースの取材を受けて、次のように語ったという。
――モンゴルでアジア欧州会議(ASEM)に出席している間、場外で王毅外相と会った。そのとき王毅外相は、「ハーグの判決結果に関しては一切触れることを許さない」という前提条件で、二国間会談を申し出てきた。だから私は会談を断った。なぜなら、それはフィリピンの国益にそぐわないからだ。フィリピンの主要な任務は、スカボロー礁(黄巌島)におけるフィリピン漁民の利益を守ることにあるからだ。
中国のこのような高飛車すぎる姿勢こそが、国際社会から締め出される最大の原因を作っていることを、中国は分かっていない。
一党支配体制を維持することこそが、中国の最大の課題なのだが、その求心力を失いつつあるため、なりふり構わず動き始めている。
その課題のために、自らを追い込み始めた中国――。
しかし、9月初旬には中国でG20が開催される。勇ましい言葉通りに空海軍強化による行動を、いま取ることはできない。
さあ、どうするか――?
習近平政権のジレンマはエスカレートしていくばかりだろう。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。