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アメリカ政治

米大統領選、副大統領選びのから騒ぎ

2016年7月7日(木)16時47分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

 典型的なのが、地理的な補完性だ。大統領選挙でカギを握る州の政治家を副大統領候補に抜擢することで、選挙を優位に戦える可能性が指摘されやすい。ところが実際には、そういった観点で効果を発揮したのは、1960年の大統領選挙でジョン・F・ケネディ大統領の副大統領候補となったリンドン・ジョンソンが最後だったというのが定説である。

 前回2012年の大統領選挙では、共和党がポール・ライアンを副大統領候補に選んだが、その地元であるウィスコンシン州を制したのは、民主党のバラク・オバマ大統領だった。バイデン副大統領の地元は、そもそも民主党が圧倒的に強いデラウェア州であり、同氏による地理的な貢献は皆無である。

 大統領候補とは違ったキャラクターの候補を選んでも、それがプラスに働くとは限らない。2008年の大統領選挙では、共和党がサラ・ペイリンを副大統領候補に選出した。それまで無名だった女性知事の抜擢により、地味な大統領候補だったジョン・マケインを盛り立てる効果が期待されたが、経験不足が露呈するなど結果的には逆効果だった。民主党も1984年に女性(ジェラルディン・フェラーロ)を副大統領候補に選んだが、大統領選挙では共和党のロナルド・レーガン大統領が圧勝している。

【参考記事】ペイリン? ギングリッチ? 迷走する共和党の「顔」

 ジョンソン副大統領のほかに、大統領候補を助けた稀な副大統領候補としては、1992年の大統領選挙におけるアル・ゴアがあげられる。民主党の大統領候補だったビル・クリントンは、同じ南部出身の若手で中道的な政策でも似通ったゴアを選出、自らのキャラクターをさらに強烈に打ち出す戦略により、見事に当選を果たしている。

大統領候補のキャラクターが強すぎる

 今回の大統領選挙では、大統領候補のキャラクターが強すぎる。副大統領候補が誰になるにせよ、選挙結果に与える影響は限定的だろう。

 クリントンとトランプの知名度は高く、大半の有権者の見解は固まっている。政治家の好感度をたずねた世論調査では、クリントン、トランプの両名とも、「好きでも嫌いでもない」とした回答は、わずかに1割程度しかない。副大統領候補が誰であっても、今から両氏への意見を変えるほどのインパクトを持つとは考え難い。世論調査によれば、大統領候補の得票率を上げる効果が大きいとみられるのは、民主党であればサンダース、共和党であればマルコ・ルビオ上院議員程度であり、いずれも副大統領候補に選ばれる可能性が低い政治家に限られている。

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