米大統領選、副大統領選びのから騒ぎ
それぞれの大統領候補には、副大統領候補に求めるべき資質が取りざたされている。クリントンの場合には、予備選挙でサンダースを支持した人々を取り込むために、サンダースのようにリベラル色の強い候補を選ぶべきだという意見がある。有力となるのはウォーレンであり、そうなれば正副大統領候補が女性という話題性もある。
もっとも、サンダースの支持者は既にクリントン支持に転じ始めている。サンダース支持者のうち、大統領選挙ではクリトンではなくトランプに投票しようと考えている割合は、急速に低下している。2008年の大統領選挙で、オバマ大統領と民主党の大統領候補を争ったクリントンの支持者が、いつまでも共和党のマケインに投票する意向を示していたのとは対照的だ。
金融規制の強化が持論のウォーレンに対しては、クリントン陣営の資金源であるウォール街の警戒感が強い。ウォーレンを選ぶリスクを冒す必要があるのかどうかは、議論が分かれるところである。
トランプについては、経験が豊富な政治家を選び、トランプに対する懸念を軽減する必要があると指摘されている。しかし、周囲の助言を聞き入れないトランプの性格は、ここまでの選挙戦で明らかだ。経験豊富な政治家が選ばれたとしても、「トランプと上手くやれるのか」という点に興味は集中するだろう。言い換えれば、焦点があたるのは、副大統領候補ではなく、あくまでもトランプである。
報われない仕事
副大統領は、大統領に万が一のことがあった場合に、その職位を継ぐ大事な役職である。今回の大統領選挙の場合、いずれの政党の候補も高齢であり、その意味では、副大統領が誰になるかは重要な意味をもつ。しかし、こと選挙の行方という観点では、過熱する副大統領選びは、党大会までの「から騒ぎ」と言えるのかもしれない。
選ばれる政治家にとっても、副大統領は必ずしも魅力的なポジションとは限らない。1960年代以降に副大統領候補となった政治家のうち、半数以上がいずれかの時点で大統領候補になっているという。しかし、大統領暗殺によって昇格したジョンソンを除けば、実際に副大統領から大統領となったのは、ロナルド・レーガン大統領の副大統領だったジョージ・H・W・ブッシュしかいない。
冒頭のバイデンの問いかけに、ギングリッチはこう答えている。
「やった方が良いだろうか?それは、いい仕事か?」
安井明彦
1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、2014年より現職。政策・政治を中心に、一貫して米国を担当。著書に『アメリカ選択肢なき選択』などがある。