最新記事

ドイツ

ドイツの積極的外交政策と難民問題

Ozan Kose/Pool -REUTERS


 論壇誌「アステイオン」84号(公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会編、CCCメディアハウス、5月19日発行)は、「帝国の崩壊と呪縛」特集。同特集の森井裕一・東京大学大学院総合文化研究科教授による論考「国民国家(ネイションステイト)の試練――難民問題に苦悩するドイツ」から、一部を抜粋・転載する。
 イギリスのEU(欧州連合)離脱問題が世界を騒がせているが、離脱票が上回った理由のひとつが、EU域内移民、そして難民の流入だった。2015年秋から先鋭化したEU構成国への多数の難民流入。とりわけドイツは2015年の1年間で約110万人もの難民を入国させているが、「なぜドイツはこれほどまでに大量の難民を入国させ、メルケル首相は頑なに人道的観点を強調し続けるのか」と森井教授。難民受け入れの背景から社会の変容、外交政策まで、本論考では、ドイツにおける難民問題の意味とEUの難民政策におけるドイツの役割を考察している。以下の抜粋は、ドイツの外交政策に関する節から。

(写真は5月下旬、イスタンブールで開かれた世界人道サミットで会話を交わすメルケル独首相とトルコのエルドアン大統領)

◇ ◇ ◇

ドイツの積極的外交政策と難民問題

 メルケル首相が言うように憲法の理念を頑なに守る限りにおいて難民庇護申請の数それ自体を制限するようなことができないのであるとすれば、ドイツが難民問題に対処するためには、そもそも難民の発生源のところで問題に対処しなければならない。二〇一五年からの難民問題の主要課題はシリア内戦であるから、シリアとその周辺国の問題に対処することが焦眉の急ということになる。

【参考記事】ロシアは何故シリアを擁護するのか

 トルコ、ヨルダン、レバノンなどのシリア隣接国には多くの難民が流入しており、周辺国の環境悪化とヨーロッパで生きる希望がEUへの難民の大量流出をもたらしてきた。問題解決のためには周辺国に対して難民対応の支援を行うことが不可欠である。

 とりわけ最大のシリア難民を抱え、地域に大きな影響を与えるトルコとの関係は重要である。難民対応のための資金援助などは実施されているが、EUとトルコ、ドイツとトルコの関係もさまざまな問題を抱えており、容易ではない。メルケル首相が政権の座につく前にトルコのEU加盟交渉開始が決定されていたが、メルケル首相はトルコのEU加盟は加盟交渉の当然の帰結とはならず、EUはトルコを完全なメンバーとして迎え入れるべきではなく、特別なパートナーシップ関係を構築すべきと主張していた。その後トルコのEU加盟交渉はさまざまな理由から今日に至るまでほとんど進展せず、トルコ側でもEU加盟の機運が失われていったことから、加盟交渉は停滞したままとなっている。

 トルコのエルドアン大統領の権威主義的な政策展開にはドイツでは批判の声も大きい。とりわけトルコ内クルド人に対する抑圧的な政策は常に批判の対象となっている。しかし、難民危機への対応はトルコとの緊密な協調をメルケル政権にとっても不可欠なものとした。地域大国であり、NATOのメンバーであり、シリアと長い国境を接するトルコの協力なしに難民問題を解決の方向に向かわせることはできない。シリア難民の多くはトルコに入国し、そこでの生活状況の悪化からドイツを目指すのである。そのためメルケル首相とシュタインマイヤー外相はトルコをEUへの難民流入抑制のキープレイヤーとして認識し、EUが協調して対トルコ政策を展開することを求めているのである。

【参考記事】ドイツ議会がアルメニア人「虐殺」を認定、の意味

 トルコとの関わり方のみならず、対中東政策全般を考えてみても、ドイツ外交は厳しい試練にさらされている。二〇一五年一一月にパリで発生した同時多発テロは、独仏協調とEUの連帯という点からもドイツをより強く中東に関与させることとなった。

 フランスはシリア国内のテロを実行したIS(イスラム国)への報復のために空爆を強化したが、ドイツはフランスを支援するために、自らは空爆は行わないとしても、空爆のための偵察・情報収集飛行を実施したり、地中海に配備されたフランス艦船の警護を実施している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

サントリーなど日本企業、米関税に対応へ 「インパク

ワールド

韓国、米関税で企業に緊急支援措置策定 米と交渉へ

ビジネス

総務省、フジHDに行政指導 コンプラ強化策の報告要

ビジネス

ECB高官、トランプ関税は世界経済の安定脅かすと警
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 9
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中