最新記事

トルコ

ドイツ議会がアルメニア人「虐殺」を認定、の意味

2016年6月3日(金)17時30分
シボーン・オグレイディ

REUTERS

<ドイツ連邦議会が1915年のアルメニア人迫害を「オスマン・トルコによるアルメニア人虐殺」だったと認定したことで、トルコ政府は激怒している。将来のEU加盟をにらみ、難民問題の解消でも協力してきたドイツだからこそ尚更だ。両国関係、ひいては欧州情勢にも影響を与えるだろう> 写真は、「虐殺」認定に感謝するアルメニア系ドイツ人

 トルコにとって、外国と揉めてばかりの1年だった。アメリカ政府はISIS(自称「イスラム国」、別名ISIL)掃討作戦の一環で、シリアのクルド人武装勢力と手を組んだ。彼らはトルコでテロを行っている勢力だ、と主張してきたトルコは激怒した。ロシアとの関係は、領空を侵犯したロシアの戦闘機を撃ち落とした昨年11月以降一気に冷え込んだ。さらにドイツのテレビで笑い者にされたと感じたレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は、ドイツ人コメディアンのヤン・ベーマーマンを告訴した。

【参考記事】トルコから名誉棄損罪で訴えられてわかったドイツの人権レベルの低さ

 そこへ再び衝撃が襲った。ドイツ連邦議会は2日、オスマン・トルコによる1915年のアルメニア人迫害を「ジェノサイド(虐殺)」だと圧倒的多数で認定した。エルドアン政権が何としてでも防ごうとしていた事態だ。

欧州の歴史問題

 第1次大戦では最大150万人のアルメニア人が犠牲になった。この数字は実際より水増しされており、彼らは主として内戦の犠牲者だというのが、トルコの主張だ。

【参考記事】オスマン・トルコで起きたアルメニア人虐殺とディアスポラ(離散)の過酷

 トルコ政府は直ちにベルリンから大使を召還。エルドアンは、この虐殺認定はトルコとドイツの関係に「深刻な影響」を及ぼすと語った。メブリュト・チャブシオール外相は、ナチスを連想させるようなツイートを投稿した。「他国の歴史に泥を塗っても、自国の歴史の暗部を消し去れるわけではない」
 
 トルコとドイツの関係は不安定な時期にある。EU(欧州連合)は今年3月に難民流入抑制策でトルコと合意した。欧州の難民をトルコが受け入れる代わり、トルコ人がビザなしでEU域内を旅行できるようにするというもの。EUはその強化を望み、トルコはこれがEU加盟への踏み台となることを期待している。

 ドイツから大使を呼び戻すのは、よいスタートとは言い難い。ドイツはトルコの最大の貿易相手で、3月の難民合意のとりまとめを指揮したのもドイツだ。ワシントンの戦略国際問題研究所のトルコ責任者、ブレント・アルリザは取材に対し、先週の議決が両国の長期的関係にどう影響するか、まだ判断するのは早いと言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中