最新記事

中国政治

小さな村の民主主義を強権でつぶす習政権

2016年6月30日(木)16時00分
リア・リュウ、べサニー・アレン・イブラヒミアン

逮捕に抗議する村人は林が賄賂を受けることなどあり得ないと言う James Pomfret-REUTERS

<土地の「強制収容」に抗議する住民が直接選挙で選んだ指導者を拘束し、ネットの検閲を強化する習近平政権>

 中国南部広東省の漁村・烏坎(ウーカン)は小さな民主化の成功例として知られるが、村人が困難な闘いで勝ち取った民主主義は今、大きく切り崩されようとしている。

 11年9月、土地の不正取引に抗議する村人たちは村に通じる道路にバリケードを築いた。警察はこれを逆手に取って村を包囲し兵糧攻めにしようとした。

 立て籠もった村人たちは共産党への忠誠を表明し、党中央に地元幹部の腐敗を正してほしいと訴えた。長い抗戦の末、広東省の党幹部が村に入り、村人と協議、腐敗した村の幹部に代わる新しい指導者を住民の直接選挙で選べることになった。

 このときに選出された村の共産党委員会の林祖恋(リン・ツーリエン)書記が6月半ば、当局に突然拘束された。村人はすぐさま抗議の声を上げ、ネット上でも当局の暴挙を告発。抗議の拡大を恐れる当局は躍起になって検閲し、烏坎に言及した投稿を次々に削除している。

【参考記事】習近平、集中化と民主化の境界線

 林は逮捕の直前、中国版ツイッター・微博(ウェイボー)で大規模な抗議活動を呼び掛けた。土地問題がいまだに解決していないからだ。地方当局が農民の土地を取り上げ、開発業者に払い下げて法外な利益を得る――全土にはびこるこの理不尽な慣行をやめさせるには、抗議の声を上げるしかない。林はそう訴えた。

 数日後、警察の車が何十台も村を取り囲み、異様な厳戒態勢の中で林は夜明け前に連行された。村を管轄する陸豊市の警察は収賄容疑で逮捕したと発表。だが村人に言わせると、容疑はでっち上げだ。逮捕当日には警官400人が村人と対立。翌日、「村の書記を返せ」と叫びながら、村人数千人がデモを行った。

腐敗一掃は看板だけか

 デモ参加者は村を包囲する警官隊の動画や画像をネットに投稿。監視カメラが捉えた暗闇での逮捕劇もネットで公開された。

 ネット上の言論統制を強化している当局は即座にこれらの投稿を削除。2日間で微博で最も多く検閲に引っ掛かった言葉は「烏坎」と「村民」だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ関税巡り希望持てず=訪米後に仏大統領

ワールド

英語を米国の公用語に、トランプ氏が大統領令を計画=

ビジネス

米PCE価格、1月+2.5%にやや減速 個人消費は

ビジネス

独CPI、2月速報はEU基準で+2.8% 前月と変
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:破壊王マスク
特集:破壊王マスク
2025年3月 4日号(2/26発売)

「政府効率化省」トップとして米政府機関に大ナタ。イーロン・マスクは救世主か、破壊神か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 3
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身のテック人材が流出、連名で抗議の辞職
  • 4
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 5
    米ロ連携の「ゼレンスキーおろし」をウクライナ議会…
  • 6
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 7
    日本の大学「中国人急増」の、日本人が知らない深刻…
  • 8
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 9
    【クイズ】アメリカで2番目に「人口が多い」都市はど…
  • 10
    「売れる車がない」日産は鴻海の傘下に? ホンダも今…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 3
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 4
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 5
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 6
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 7
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中