銃乱射に便乗するトランプはテロリストの思うつぼ
米民主党の大統領候補がほぼ確実のヒラリー・クリントン前国務長官の反応は、もっと健全なものだった。オーランド銃乱射へのコメントは力強いが抑えめだ。攻撃は批判したが、アメリカが憎悪に満ちて見えたり、トランプのように憎悪をかき立てるようなことはしなかった。「私は誰かを悪魔と決めつけたり、扇動したり、特定の宗教に宣戦布告をしたりはしない。それは危険であり、ISISの思うつぼだ」と、クリントンはテレビのトゥディ・ショーで語った。
だがクリントンの計算された対応をもってしても、大統領選の争点は誰がアメリカをテロから守ってくれるか、ということにならざるをえないだろう。クリントンが呼びかけている銃規制が通っていればオーランドの事件は起こらなかったかもしれないが、悲しいことに、銃規制は大統領選ではほとんど重要性をもちえないだろう。テロ攻撃の数百倍の速さでアメリカ人を殺している銃への病的執着は、1999年のコロンバイン高校銃乱射事件の後も2012年サンディフック小学校銃乱射事件の後も治癒に向かう兆しがない。
【参考記事】米銃乱射事件ワースト11
今から11月の本選までの間に新たなテロが起きないとは考えにくい。だが仮に何もなかったとしても、今回の銃乱射事件を受けて、トランプが有権者の恐怖や怒りに付け込み反イスラム主義むき出しのヘイトスピーチで支持を集めようとするのは間違いない。反イスラムを大きな争点にしていくだろう。
脅威はトランプ自身
皮肉な結果だ。もしトランプが今後もイスラム教徒を攻撃しまくり、イスラム教徒の入国禁止を訴え、テロ容疑者の拷問を支持し、実際主義に基づいた政策を弱腰だと批判し続けるなら、すべてはテロリストの思惑通りだ。トランプはISISに志願する若者を大量に生み出し、アメリカに新たな憎悪や恐怖の火種を撒き散らすだろう。それどころか、国内の分断を進めてアメリカを弱体化させることで、敵の強大化を許す結果にもつながるかもしれない。
トランプにはアメリカが直面する国家安全保障上の最大の脅威が何かわからない。なぜなら、脅威はまさにトランプ自身だからだ。トランプはテロリストたちにとって最も望ましいアメリカ大統領だ。人種差別主義者で政治の素人。国際法などお構いなしに世界中へ威張り散らす。おまけにイスラム教徒を締め出そうと躍起になっている。多くのイスラム教徒はアメリカに深い同情を寄せており、イスラム過激派掃討に向けて最も重要な味方になってくれる可能性があるにも関わらず。