銃乱射に便乗するトランプはテロリストの思うつぼ
世界は、こんな男を大統領に仰ごうとしているアメリカを醜いと思っていることだろう。
今年の大統領選は、9.11同時テロから4回目の大統領選になる。この間のどの選挙も、9.11の強い影響を受けてきた。最初はジョージ・W・ブッシュのテロに対する反応の是非を問う国民投票であり、ブッシュの再選は対テロ戦争への信任投票だった。2008年の第2回と2012年の第3回は、対テロ戦争が招いた中東の不安定化についての答えを求める選挙だった。バラク・オバマはブッシュのやり方を批判したかもしれないが、オバマもアメリカ人のテロ中心の安全保障観に触れなかったし触ろうともしなかった。
【参考記事】誤算だらけの中東介入が反欧米テロを生む
私は著書『National Insecurity』のなかで、ブッシュ政権とオバマ政権がこうした課題をどう扱ったかを示し、この時代を「恐怖の時代」と名付けた。将来の世代は両政権の外交政策をテロに反応することだったと評することだろう。ブッシュは9.11に反応したし、オバマはブッシュの9.11に対する反応に反応した。テロの脅威が生存を脅かすほどのものでないことは明らかだったが、この時期、それを口に出して言える政治家は皆無だった。
恐怖の時代は終わらない
オバマ政権の任期中に台頭したISISは、アルカイダよりさらに不気味な脅威だった。テロリストとしては初めて自らの領土を欲し、人材も外から採用した。望めばどこでも誰でもISISの一員になることができる。組織は分散しており、階層もない。疎外され、怒りをかこち、ISISの名の下でテロを行うことも辞さない者たちを世界から迎え入れることで、ISISはさらに大きく恐ろしく見えた。
著書の最終章で、私は2016年の大統領選こそ変わって欲しいと願いを書いた。テロよりも所得格差から新しい大国の台頭までアメリカ人の生活を左右する真の課題に目を向け、恐怖の時代が終わることを期待した。
トランプの主張を聞くと、願いはとてもかないそうにない。出馬当初から、昨年12月にカリフォルニア州サンバーナーディーノでISISの支持者とみられる容疑者による銃乱射事件が起こった後はとくに、アメリカ人のテロに対する不安やイスラムに対する不安を煽り、アメリカ人が痛ましいほどに無知な未知の文化についての恐怖を煽った。今年の大統領選の中心課題もまたテロになることは明らかだ。再び多くのアメリカ人が、真にテロを打ち負かす唯一の方法は怯えないこと、恐怖を脇に置くこと、そして強さを磨くことだという事実を無視するだろう。