ヒラリーを「歴史的」勝利に導いた叩かれ強さ
今年の予備選では、不満、怒り、憎しみを原動力にしたトランプとサンダースの支持者の暴力行為が目立ったが、ヒラリーは勝利宣言でこう語った。
「私たちは、対立よりも協力のほうが良いと信じています。分裂より団結、憤りより勇気づけること、壁よりも橋のほうがいいと信じているのです。」
「偉大であるためには、卑小であってはなりません。アメリカを定義する価値観と同じくらい私たち国民も寛容でなくてはならないのです。アメリカは、心が広く、公正な国です。私たちは子供たちに『神のもとに統一され、全ての人々に自由と正義が約束された不可分の国(学校や公式行事で使われる「忠誠の誓い」の一部)』と教えます。けれども、今回の選挙は、これまでのような共和党対民主党というお決まりのものではありません。この選挙は異なります。アメリカとはどんな国なのかを決めるものであり、何百万ものアメリカ人が一体になるものです。私たちは(メキシコ人やイスラム教徒を差別するトランプより)まさっているはずです」
このヒラリーの演説は、人種、宗教、社会経済的背景、性別、性的指向などにかかわらず、アメリカがすべてのアメリカ人にとっての国であることを呼びかけるものであり、トランプやサンダースより大統領としての威厳と説得力があった。
ここでも明らかなのは、トランプに辟易している共和党員へのラブコールだ。トランプが共和党野候補指名を確実にした日、ツイッターで #RepublicanForHillary というハッシュタグがトレンドになった。そこには「女性蔑視の人種差別者に投票なんかできない」という意見が目立った。ヒラリー陣営は、そういった人々にも「アメリカを誇れる国に保とう」と呼び掛けている。
また、「The View」というテレビ番組でヒラリーが冗談まじりに語っていたが、彼女の強みは「面の皮が厚いこと」である。
トランプもサンダースも、他人からの批判に過敏だ。トランプは、批判されたら倍返しをする。相手がローマ法王であっても。また、サンダースは、レポーターの質問が気に入らないときに、短気になったり 、その場を立ち去った りすることがある。
女性のヒラリーが同じことをしたら、トランプやサンダースのように簡単に見逃してはもらえない。長年の経験でそれがわかっているヒラリーは、「女性差別だ!」と文句を言うかわりに面の皮を厚くするトレーングをしたのだ。
トランプ人気を懸念する人は多いが、ヒラリー自身はトランプが対戦相手になったのを喜んでいるという見方もある。これまでは対戦相手のサンダースを腫れ物のように扱ってきたが、トランプが相手なら遠慮なく攻撃できる。
暴言を繰り返しているが、実はプライドが高く傷つきやすいトランプは、何十年もあちこちからバッシングを受け、倒れ、起き上がってきたヒラリーより精神的に弱い。本選の討論では、トランプが冷静さを失って暴言や揶揄で反論するだろう。共和党のディベートではそれが有効だったが、予備選と本選はまったく異なるゲームだ。
本選では、国民は候補に「大統領らしさ」を求めるものだ。ヒラリーとの一騎打ちとなったトランプは、予想以上に早く崩れ始めるかもしれない。