最新記事

中国

天安門事件は風化へ、中国社会は「娯楽とエゴ」へ

2016年6月9日(木)11時52分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

Damir Sagolj-REUTERS

<「記憶の風化が深刻」と言われ、天安門事件の追悼運動が下火になってきている。かつてはこの追悼運動が、そしてネットの普及と住民運動の広がりが、中国を変えていく原動力になると期待されていた。中国社会は今どこに向かおうとしているのか> (天安門広場で写真撮影、2016年3月)

「天安門事件の記憶の風化は深刻です。今、追悼運動は正念場を迎えています」

 天安門事件27周年を迎えた6月4日、日本のテレビニュースで流れていた言葉だ。思えばここ数年、6月4日を迎えるたびに同じフレーズを聞いているようだ。今や中国で天安門事件を知らない若者も珍しくはない。天安門事件の追悼運動は一体どうなってしまったのか。

 5日、東京の四谷区民ホールで「六四天安門事件27周年記念集会」が開催された。天安門事件の学生リーダーである王丹氏が講演したこともあってか、400人の聴衆を集め、会場はほぼ満員となった。

【参考記事】天安門事件から27年、品性なき国民性は変わらない

 講演は天安門事件からその後の王丹氏の歩みまでを語る内容だったが、正直に言うと、やや退屈に感じた。というのも、王丹氏は2012年にも日本で講演会を開いている。私はその時も参加したが、この4年間で話の内容にほとんど変化がなかったからだ。ただ、この退屈さは王丹氏の責任ではないだろう。

「天安門事件の記念集会は、たんなる昔話ではなく中国を変えていく原動力となる」――この思いがあったからこそ天安門事件とその追悼運動はビビッドな政治問題となりえた。特に2000年代からは、インターネットの普及や市民意識の高まりによって中国社会が変化するという期待が高まるなかで、追悼運動が熱を帯びたという側面もあった。しかし今、その期待は次第に薄れつつある。

【参考記事】天安門事件、25周年

海外留学した中国人学生ですら天安門事件を知らない

 香港メディア・端伝媒が4日、興味深い動画を掲載している。「自由世界の中国人留学生たちは天安門事件をどのように見ているのか?」とのタイトルで、ロンドン、ニューヨーク、台北、香港に留学した中国人留学生30人あまりのインタビューをまとめたものだ。

 厳しい検閲下にある中国本土を離れた若者たちが事件をどう捉えているかを聞いたものだが、なんと3分の2が天安門事件について知らないか、ほとんど知識を持っていなかったという。「こどもの日(中国では6月1日)の3日後?」「端午の節句でしょ?」「うーん、政治と関係がありそう」などと無邪気に話す若者たちの姿はなかなか衝撃的だ。

 何が衝撃的かといえば、海外に留学した人間までもが知らないという点である。海外に出れば関連する報道を目にしたり、おしゃべりの話題に上がったりしても不思議ではないはずだろうに、という驚きだ(一方、中国国内の大学生が知らないという話だともはや衝撃ですらない)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラがソフトウエアやサービスなどの部門でレイオフ

ワールド

ヨルダン国王、イスラエルのラファ侵攻回避訴え 米大

ビジネス

米商工業と家計の借り入れ需要減退=FRB融資担当者

ビジネス

米国株式市場=3日続伸、FRB年内利下げ観測高まる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 2

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中