最新記事

若者

過激化しテロ組織へ走る10代、なぜ社会は止められなかったのか?

2016年6月13日(月)20時25分

 アミンとその母であるアマニ・イブラヒムは1999年にスーダンから米国に移住してきた。アミンはまだ2歳そこそこである。彼らは数年にわたって親戚と共にバージニア州の狭小な部屋に住み、母親が2011年に再婚するまで、1つのベッドに寝ていたという。アミンが14歳の頃である。

 イブラヒムは息子に対して過保護な母親であり、供述書では、息子が慢性的な健康問題を抱えており、自分も恐怖感と「何か悪いことが息子のみに起きるのではないかという予感」を抱いていると述べている。

 アミンが10歳のときにクローン病(炎症性腸疾患で、激しい腹痛と下痢を引き起こすことがある)との診断を受けた直後から、イブラヒムは息子をスポーツ活動に参加させず、友達の家に泊まることも禁じた。アミンは1人で過ごすようになった。

 アミンもその母親も、ロイターからのインタビューの要請に応じていない。彼らの見解は、連邦検事に提出された供述書に詳細に記されている。

目に見える過激化

 10代になったアミンは、家族とは別にイスラム教を学び始めた。アミンは司法心理学者に対し、両親が実戦しているような「儀礼的な」ものとは違って、イスラム教の知的な側面に惹かれるようになったと話している。ネット上で調べているうちに、彼はIS支持者のもとにたどり着き、彼らと交流するようになった。10代の若者は突然自分が知的で価値のある人間だと感じるようになったと、逮捕後、供述書の一部として提出された司法心理学者の報告書に書かれている。

 彼は「ジハードの理想主義的なイメージ」や、イスラム政府は西側諸国の政府より優れている、無人機による攻撃は邪悪である、ムスリムは虐げられているといったイスラム国の主張に惹かれていった、と司法心理学者に語っている。

 アミンが何時間もネット上で接触したIS支持者の1人が、アブドラと名乗るフィンランドのティーンエイジャーである。彼は、時間が経つにつれて彼らの思想は強固になっていったと話している。アブドラは起訴されていない。

「最初は、あるグループを支持する、ジハード主義者を支持するという程度だった。本格的なIS支持者になったのは、基本的にはシリア内戦が始まった頃だ」と現在21歳のアブドゥラはあるインタビューで語っている。「軍に対する自爆攻撃は許されると言い始めた」

 バージニア州マナッサスのオズボーンパーク高校に通うアミンの振る舞いは目に見えて変化していった。2013年、高校2年になる頃には、彼はますます過激になっており、ムスリムの同級生が1日5回の礼拝をサボっていると厳しく非難し、中東での混乱についての議論に誘い込もうとしていた。

 この頃、ISはシリア政府、シリア反体制派双方と衝突し、主要都市や敵の検問所を支配下に収めるようになっていた。ISは批判者や対立グループを誘拐・殺害することで知られているが、ソーシャルメディアを利用して主張を広めることにも長けていた。ISはツイッターその他のソーシャルメディアを介してムスリムの若者にアピールし、西側諸国の出身者も含め、若い外国人戦闘員の参加を促した。

 2013年秋に行われたグループチャットで、アミンのクラスメート3人は彼の過激な意見を和らげようと試みた。「彼が何を言っても茶化そうとした」とクラスメートの1人はあるインタビューで語っている。彼はアミンの意見を本気に受け止めたことなどなかったという。

 シンクタンクのブルッキングス研究所が行った調査によれば、アミンが過激思想にのめり込んでいった2013年に、ISを支持するツイッターアカウントの数は2倍近くに増えたという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中