最新記事

若者

過激化しテロ組織へ走る10代、なぜ社会は止められなかったのか?

2016年6月13日(月)20時25分

6月6日、17歳の高校生がビットコインを使って過激派組織「イスラム国」(IS)に献金する手順をツイートし、IS参加目的の友人のシリア渡航を支援。過激派のエスカレートの結果、自身も逮捕されるに至った。なぜ米国は若者の過激化を止めることができなかったのか。写真は過激主義グループに惹かれた若者に対するカウンセリングで知られるバージニア州のイスラム教指導者モハメド・マジッド氏。逮捕された少年とも面会していた。5月、バージニア州で撮影(2016年 ロイター/Carlos Barria)

 実生活では17歳、年齢のわりに小柄で、障害のある手をポケットに隠していることが多かった。オンラインでは、「@AmreekiWitness」を名乗る。ツイッター上で最も活発な過激派組織「イスラム国」(IS)支持アカウントの1つだった。

 アリ・シュクリ・アミンは、何カ月もかけて、危ない一線にどんどん近づいていった。

 2014年、郊外に住む高校生だったアミンは、ビットコインを使ってイスラム国に献金する手順をツイートしはじめた。2015年初めには、同じ学校に通うレザ・ニクネジャドのシリア渡航を支援する。目的はIS参加だった。こうしてエスカレートした結果、同年2月には彼自身が逮捕されるに至る。

 同年6月11日、かつては優等生だったアミンは、外国のテロ組織に対する重要な支援について共謀していたことを認めた。米政府のもとには、彼の友人だった18歳のニクネジャドが海外で死亡したとの未確認情報が入っている。

 アミンが法廷で有罪を認めるまでの2年間、過激さを増す彼の考え方を和らげようと多くの人が努力してきた。彼の友人や家族、宗教指導者、そして元タリバンの徴募担当者といった人々だ。現在では中断されているが、米国務省がツイッター上で行った「Think Again Turn Away(考え直して、向きを変えよう)」というキャンペーンも、アミンの計画を思いとどまらせようとした。

 だが、こうした取り組みはいずれも散発的だった。アミンが過激主義へと走る道を止められなかったことに象徴されるように、イスラム武装勢力への米若者の参加を思いとどまらせるための政府の取り組みはバラバラだ。犯罪組織に魅せられる若者に対しては大規模な研究機関や対策プログラムがあるが、過激派のイデオロギーに魅了される若者については、そうしたシステムが存在しない。

「9.11」米同時多発攻撃から15年近くが経つが、アミンの事件が示しているように、米国には、自国の若者を過激主義から遠ざけるための、あるいは収監された若者に過激主義を捨てさせるための明確な戦略や十分なリソースが欠けている。

 混乱する取り組みの一方で、米国内でのテロ関連の逮捕件数は増加している。2015年には少なくとも71人が「ジハード(聖戦)」関連の事件で起訴されており、「9.11」以来最多となった。イラク及びシリアの過激派グループに参加、又は参加を試みた米国人は250人以上に達する、と下院国土安全保障委員会は9月に推定している。

 昨年、同委員会スタッフらは、過激主義対策における「コミュニティへの権限委譲」という2011年の戦略には、明確なリーダーシップもしっかりした予算措置もなく、進捗を評価することが困難であるという結論をまとめた。

 委員会スタッフが検証した4つの連邦機関を合わせても過激主義対策の年間予算は約1500万ドル(約16億円)であり、従来のテロ対策措置に数十億ドルが使われているのに比べるとごくわずかだった。

 国土安全保障省では、近日中に、宗教指導者から精神医療カウンセラー、地方自治体、法執行機関などの地方グループに対し、1000万ドルの補助金を提供する予定である。

場当たり的対策

 だが、コミュニティレベルのグループは限られた財源のもとで運営されている。イスラム過激主義に対する防壁として有力な候補の一つがモスクだが、ケンタッキー大学のイーサン・バグビーによる2011年の調査によれば、その平均収入は7万ドルで、他の宗教組織の15万ドルに比べて半分以下である。

 元タリバンの徴募担当者で、過激化対策へのムスリムの取り組みを研究するムビン・シャイク氏によれば、「たいていの人は、場当たり的に(過激化対策を)やっている」と話す。シャイク氏は2014年にソーシャルメディア上でアミンとも言葉を交わしている。「必ず成功すると言えるような対策はない」と彼は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中