最新記事

南米

「国家崩壊」寸前、ベネズエラ国民を苦しめる社会主義の失敗

2016年5月19日(木)19時06分
マーク・ペリー(米ミシガン大学教授)

5. 「社会主義」とは、ベネズエラの惨状を伝える報道写真が象徴するように、衛生状態が最悪な手術室や壊れた保育器、血だまりの中で横たわって治療を待つ患者、抗生物質が手に入らないために命を落とす犠牲者など、国民を悲惨な結果へ導く精神的な毒を指す。

 これに対し「民主社会主義」とは、社会の一握りが富を独占していると不公平を訴えることにより、富を富裕層から合法的に盗むことを指す。社会全体の貧困化させることによって格差是正が達成される。政府に権力を集中させ、民間企業や個人の権限を抑え込む。(5月16日付「ウォール・ストリート・ジャーナル」、ブレット・ステファンズのコラム)

6. 過去数十年間でベネズエラから国外へ逃れた医師の数は1万3000人に上ると推計される。医師不足解消の助け舟としてキューバ政府がベネズエラに医師を派遣したが、派遣されたキューバ人の医師たちは、ベネズエラからコロンビア経由でアメリカを目指す始末だ。だがそうなるのも無理はない。ベネズエラでは医師も診療報酬を減らされ、料理に使う油や食料品を購入するのもままならない状況なのだ。(4月26日付「リーズン」)

7. ベネズエラでは急激な物価上昇に対応するため貨幣を増刷しようにも、そのための紙代を支払う資金すらない。(4月27日付「ブルームバーグ」)

[参考記事]ベネズエラの新聞に紙不足の危機迫る

8. 食料不足で苦しむベネズエラでは、食料品店を狙った略奪が日常茶飯事だ。(ロイター/ビデオ)

9. ベネズエラは原油埋蔵量が世界一であるにも関わらず、政府が国民の生存に必要な食料や医薬品すら供給できない事態に陥っている。(CNN)

稼いだ外貨を使いきった指導者

10. ベネズエラの経済危機は、1990年代末から続くウゴ・チャベス前大統領とニコラス・マドゥロ現大統領による社会主義政権が掲げた約束がイリュージョンだったことを露呈している。

 外貨収入の96%を原油に依存しているベネズエラでは、原油価格が高かった時代には、住宅環境や食料供給の改善、賃金上昇や福祉の充実によって国民も恩恵を感じることができた。

 だがベネズエラ政府は持続可能な経済への構造転換に失敗した。せめて石油で潤った外貨収入を蓄えておけば2014年に始まった不況による影響を多少なりとも抑えられたであろうに、政権はそれすらばらまき政治に利用した。(5月17日付「ニューヨークタイムズ」社説、ベネズエラの経済危機の元凶は社会主義体制だと批判して)

──ニューヨークタイムズはさらに、ベネズエラの殺人発生率は一日当たり52.2人、約28分ごとに一人が殺害される計算だと指摘している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・ウクライナ当局者、リヤドで12日会談 ゼレンス

ワールド

米は現実路線にシフト、EUは対立姿勢崩さず=ロシア

ビジネス

カナダ、1月貿易黒字は約3年ぶり高水準 関税懸念で

ワールド

プーチン氏「ロシアの安保確保する和平必要」、軍事成
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 6
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 7
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 8
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 9
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 10
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中