がんの最新治療法を見つけ治療を受けた大学生が死亡、「詐欺広告だった」と体験談を遺す
広告か情報か見分けがつきにくいリンクが大量にあることに加え、その中には魏則西さんが引っかかってしまったような虚偽の情報が大量にまぎれこんでいる。ネット検索を使い慣れている人ならばともかく、コンピューターに詳しくないユーザーならば詐欺広告にひっかかるのもむべなるかな、だ。
これだけ使い勝手が悪ければユーザーが逃げ出しそうなものだが、唯一のライバルだったグーグルはネット検閲にキレて中国市場から撤退しているだけに別の選択肢はない。
中国民間病院市場の80%を牛耳る一大勢力
もう一つのキーワードが「莆田系」病院だ。福建省莆田市出身者が経営する民間病院の総称だが、今や中国民間病院市場の80%を牛耳る一大勢力となっている。詳しくは後述するが、今や公立病院の一部も傘下におさめている。魏則西さんが治療を受けた武装警察北京市総隊第二医院生物診療センターも、莆田系の一角を担う康新公司の旗下。公立病院が民間に飲み込まれるとは驚くべき事態だが、それほどまでに莆田系の権勢が強いことのあらわれだ。
2014年には業界団体である莆田(中国)健康産業総会を設立したが、元国務委員(国家組織のトップ)の陳至立氏が総顧問、元中国衛生部副部長の殷大奎氏が高級顧問を務めるなど強大な政治的背景を持っていることを明らかにした。
【参考記事】北朝鮮、海外に「インチキ病院」の怪ビジネス
その歴史は意外と新しい。改革開放から間もない1980年代のこと、莆田市庄徳鎮の人々は行商の薬売りとして中国全土に進出していった。電柱やマンションの壁に性病や皮膚病に関する薬の広告を山のように貼り付けていくというスタイルで成功した。後に宣伝媒体は新聞、テレビと範囲を広げ、現在ではインターネットを広告の主戦場としている。
ゆえに莆田系は百度にとっては最大のお得意様である。百度は2013年に260億元の広告売り上げを記録しているが、うち120億元は莆田系だったと福建省莆田市の党委員会書記は発言している。昨年3月、百度はいかがわしい広告を閉め出すために広告審査基準の厳格化を発表したが、これに莆田系は広告出稿停止という強硬手段で対抗。公式アナウンスはないが、以前と同様の問題広告が掲載されているところを見ると、中国IT企業の巨頭・百度も譲歩せざるを得なかったようだ。
また今年1月には広告以外での蜜月も明らかとなった。百度が運営するネット掲示板「百度貼吧」の血友病板(血友病について語り合うスレッド)が莆田系病院に売却されるという事件だ。専門機関を管理人とする「商業提携」という触れ込みだったが、患者たちが自由な意見交換をするネット掲示板を売り渡したとして批判が殺到。商業提携は撤回された。