最新記事

中台関係

ケニアで拘束された台湾人、中国へ強制連行の恐怖

台湾国籍の45人が無理やり中国行きの飛行機に。中国と蜜月のケニアが「1つの中国」に協力か

2016年4月21日(木)16時00分
J・マイケル・コール

治外法権 ケニアから中国に移送され、警察官に護送される台湾人ら Yin Gang-Xinhua-REUTERS

 先週、台湾に衝撃が走った。ケニア当局に拘束され、国外退去処分を受けた台湾人45人が、台湾ではなく中国に「送還」されたからだ。台湾政府は「違法な強制連行」「非文明的行為」と非難した。

 この異例の措置は中国政府がケニア政府に圧力をかけたためとみられるが、台湾人を中国に移送させた真意は今のところ不明だ。ただし今回の出来事で、外国で治外法権を行使した中国政府の専横と、「1つの中国」原則の押し付けが浮き彫りになった。

【参考記事】南シナ海より「台湾問題」、独立派圧勝で警戒強める中国

 今月11日、ケニアで国外退去処分になった台湾人8人が中国へ移送された。彼らはインターネットなどを利用した詐欺罪で14年に拘束され、今月に無罪を言い渡された台湾人23人中の8人。翌日には残りの15人と、別の詐欺罪で拘束されていた22人の計37人が同じく中国に移送された。台湾外交部(外務省)アフリカ局によれば、2つの事件で合わせて45人が中国に送還されたことになる。

 8人が移送される前に、台湾政府は急きょ、アフリカで珍しく代表処(大使館)のある南アフリカからケニアへ外交部職員を派遣していた。しかし、職員らは国外退去処分を受けた台湾人との面会を拒まれたとの情報がある。また中国への移送を拒んだ台湾人らに対してケニアの警察官が催涙ガスを使用したとの報道もある。

 ケニア当局は処分を下した台湾人らに対して、台湾政府が本国までの航空券を用意していると嘘を言っていたことも明らかになった。

【参考記事】危険でもアフリカ目指す中国企業を待つ現実

 ケニア内務省は、台湾人を中国に送還したのはケニアに不法入国した際のルートが中国経由だったからだと説明している。それに対して台湾政府は、「基本的な人権を著しく侵害」していると非難。台湾外交部は、ケニアの国会議員や人権活動家らの協力を仰ぎ、ケニア警察を提訴する手続きを進めている。

中国はケニア当局を評価

 現時点では、中国がケニアと共謀して外国人を強制連行したと見なさざるを得ない状況だ。中国とケニアの両政府は昨年8月に犯罪人引き渡し条約に関する協議を開始した。こうした条約では当該者は出身国に送還され、訴追されるのが普通だ。しかし今回、送還された台湾人たちが所持していたパスポートは台湾のものであり、中国のものではない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中