最新記事

新興国

ルセフ弾劾はブラジルにとって正しい道か

米シンクタンク、大西洋協議会の中南米専門家3人に聞いた

2016年4月20日(水)21時32分
アシシュ・クマール・セン(大西洋協議会)

秘策を練る? 弾劾可決の翌日、地球温暖化への対策を話し合う会議で Ueslei Marcelino- REUTERS

 汚職スキャンダルや政権運営に対する批判で窮地に立たされていたブラジルのジルマ・ルセフ大統領に、弾劾決議が下った。

「この2年、ルセフの政治はまるで素人並みだった」と話すのは、米シンクタンクの大西洋評議会で中南米センター所長を務めるピーター・シェクターだ。「ルセフの決断は間違いだらけだった」。

 ブラジルの連邦下院は17日、ルセフの弾劾決議を可決し、ルセフが政権を追われるシナリオが現実味を増してきた。

 ルセフは改革を先送りし、有力な大臣を次々に更迭し、挙げ句の果てにマネーロンダリング(資金洗浄)容疑などで訴追されていたルラ前大統領を入閣させた。シェクターは、ルセフが自らの後ろ盾であるルラを官房長官に任命したのが致命傷だったとみる。汚職捜査を妨害してルラを助ける行動にしか見えなかったからだ。「連立政権を離脱するか大人しくしているしかなかった野党が、あれで一気に息を吹き返した」

【参考記事】新大統領が背負うルラ後継者の十字架

「ブラジル最大の罪は、問題先送りの罪だ。ブラジルが国際社会のリーダーになるために必要な政治改革を先延ばしにし続けたことだ」と、シェクターは言う。

【参考記事】BRICsの異端児ブラジルの実力

民主主義に対するクーデター?

 ルセフの支持者は下院の弾劾決議を「民主主義に対するクーデター」だと非難している。

 だがその非難は当たらないと言うのは、同じく中南米センターのブラジル専門家、リカルド・セナーだ。下院は、憲法規定に則って弾劾手続きを進めている。「完璧な司法手続きである必要はない。大事なのは、違法行為があった事実と政治的意思だ」。

 ルセフは政府予算の操作に関わった疑惑を指摘されている。これについて、中南米センターでラテンアメリカ経済成長イニシアティブ所長を務めるジェイソン・マルクサックは、もしルセフの支持率が高くブラジル経済が今より良い状態にあれば、(疑惑があっても)弾劾という事態までには発展しなかっただろう、と指摘する。

 ルセフはまだ逮捕はされていないが、弾劾に賛成した議員の多くは汚職や詐欺行為、選挙法違反の罪で当局から捜査を受けている。ルセフが捜査対象になれば大統領代行を務め、罷免に至れば新大統領に昇格するとみられるているミシェル・テメル副大統領も、ルセフと同じく弾劾決議を受ける可能性がある。

 次の有力候補は、弾劾を主導したルセフの政敵エドュアルド・クーニャ下院議長だが、こちらもブラジル国営石油会社ペトロブラスのスキャンダルをめぐって収賄や資金清浄に関与したとして捜索を受けた。クーニャがスイスで所有する隠し口座についての疑惑も取り沙汰されている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・寄り付き=ダウ約300ドル安・ナスダ

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極

ビジネス

FRBとECB利下げは今年3回、GDP下振れ ゴー

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中