最新記事

経営

ダン・アリエリーが示す「信頼される企業」の5要素

2016年4月14日(木)15時52分
ダン・アリエリー ※編集・企画:情報工場

「意図」を顧客にうまく伝えることに成功している企業の事例を紹介しよう。『ニューヨーク・タイムズ』紙は、2003年から「パブリックエディター」という。読者とのパイプ役に専念するポストを設置している。パブリックエディターは、同紙のお目付け役となり、読者からのメールなどに目を通したうえで、そこに書いてある意見を編集部に伝える。パブリックエディターなる存在が同紙の活動の「意図」を監視し、第三者の視点から意見を述べることで、読者との信頼構築につなげているのだ。

(4)報復

 意外かもしれないが、「報復」という行為は信頼構築に大きな役割を果たす。たとえば、顧客がクレームをコメントできるオンラインツールを用意する、というのはどうだろう。それがあれば、企業側に何かミスがあった時に、顧客は気軽に「報復」することができる。企業はその「報復」に対し、何らかのお詫びの無料サービスなどを用意する。その対応が、クレーム客にとって十分に納得できるものであったならば、彼の企業への信頼感はかえって強まることだろう。

(5)動機との合致

 レストランのウェイターが「本日のチキンは少々ぱさついております」と告げて、値段の安い別のメニューを勧めたらどう感じるだろう? 自分たちの利益より、顧客に利益をもたらすことを優先するような対応は、信頼を得るのに十分な効果がある。そんな対応をされたら、いつもより多くチップを渡すしかないではないか。

 米国にある保険会社プログレッシブ社は、自社の保険に加えて他社の保険も表示するリコメンデーション機能を用いることで顧客の信頼を得ている。顧客にとって保険商品を選ぶ動機は「できるだけ安く、安心を買える」ことだろう。そうした顧客の動機に、企業側の行動を合致させる。そうすると、ときには自社の利益にならないかもしれない。それでも顧客の動機に合わせることで、顧客はその企業への信頼を強めることになるのだ。

[執筆者]
ダン・アリエリー Dan Ariely
米デューク大学教授で、行動経済学研究の第一人者。著書に日本でもベストセラーとなった『予想どおりに不合理』(早川書房)などがある。

© 情報工場
johokojologo150.jpg



※当記事は「Dialogue Q1 2016」からの転載記事です

dialoguelogo200.jpg





情報工場
2005年創業。厳選した書籍のハイライトを3000字にまとめて配信する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP(セレンディップ)」を提供。国内の書籍だけではなく、エグゼクティブ向け教育機関で世界一と評されるDuke Corporate Educationが発行するビジネス誌『Dialogue Review』や、まだ日本で出版されていない欧米・アジアなどの海外で話題の書籍もいち早く日本語のダイジェストにして配信。上場企業の経営層・管理職を中心に約6万人のビジネスパーソンが利用中。 http://www.joho-kojo.com/top

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中