最新記事

経営

ダン・アリエリーが示す「信頼される企業」の5要素

2016年4月14日(木)15時52分
ダン・アリエリー ※編集・企画:情報工場

 有名な心理学の実験「囚人のジレンマ」で、被験者は自分の利益だけ考えて自分だけ自白することも、パートナーと協力して黙秘することもできる。もし2人が協力してどちらも黙秘すると、2人の刑期はそれぞれ1年となる。もし一方が自白、もう片方が黙秘した場合、自白した人は釈放、黙秘した人は懲役20年となり、黙秘した側が損をする。

 2人の教授は、この「囚人のジレンマ」で、同じパートナーと組んでテストを繰り返した場合と、1回ごとにパートナーを替えた場合とを比較した。

 結果は、パートナーを替えずテストを繰り返した場合の協力率は63%、1回ごとにパートナーを替えた場合は35%だった。人は、人間関係が長く続くと思うほど、相手を信頼するようになるのだ。

(2)透明性

 心理学者ポール・エックマンの研究によれば、嘘発見器でさえ人間の嘘を見逃すことがある。嘘発見器は、人間の感情的な反応を検出して嘘かどうかを判断する。しかし、人間という生き物は、嘘をつく時に、全く感情を表に出さないこともできるのだ。さらに、他の研究によると、人の嘘は嘘発見器に頼らずとも、簡単に見抜けるという。相手が口ごもる頻度を追っていけばいいのだ。

 いずれにせよ、嘘を頻繁につくことで、人の信頼はたやすく崩れることになる。したがって、企業は顧客に対して嘘をつかず、いかに「透明性」のある存在であるかを知らしめることが重要になる。舞台裏までさらけ出すことで顧客は安心するのだ。

 バークシャー・ハサウェイ社(ウォーレン・バフェット率いる投資持株会社)の株主向け年次報告書が好例だ。同社は株主に、前年度の"失敗"を説明することから始める。失敗を包み隠さず、嘘やごまかしをしないことで、株主は他の情報を含め会社全体を信頼するようになるのだ。
 
(3)意図

 コンサルタントであり、多くの著作もあるサイモン・シネックの「TEDプレゼン」は大人気であり、とてつもない再生回数を誇っている。彼はプレゼンにおいて、「何をするか」の前に、「なぜするのか」を説明する。それがシネックの、聴衆にインパクトを与えるテクニックなのだ。何かを伝えるときには、「意図」を明らかにすることが、きわめて重要だということだ。

 受け取る私たちが、伝える側の「意図」に注目するのは、「共通するもの」を見つけたいからだ。人は、自分に似たことを考えている人と一緒にいると、快適さを感じる。相手が何かをするときの「意図」を明らかにすれば、その「意図」と自分が考えていることを照らし合わせて、「共通点があるか」を判断できる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

8月米卸売在庫横ばい、自動車などの耐久財が増加

ビジネス

10月米CPI発表取りやめ、11月分は12月18日

ビジネス

ミランFRB理事、12月に0.25%利下げ支持 ぎ

ワールド

欧州委、イタリアの買収規制に懸念表明 EU法違反の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 3
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 7
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中