最新記事

中国メディア

4.3億回、中国人に再生された日本人クリエイター

2016年4月11日(月)16時12分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

自媒体バブルの崩壊を危惧する声も

――今後の目標について教えてください。

「ミニテレビ局のような存在になりたいですね。もっと他の人にも出演してもらって、自分のチャンネルに自分が出演しない番組があってもいいんじゃないかな、と。せっかく中国のネット上に生まれた日本に特化したチャンネルなので、自分だけのものにはしたくないんです。いろんな人が僕のチャンネルを利用して日本の情報を発信できるような仕組みができればいいなと思っています」

 なにごともスピードが速い中国では、メディアのネットシフトのペースも日本以上だ。テレビや雑誌、新聞の広告費は経済成長に伴い順調に成長してきたが、2014年からはネットに食われてマイナスに転じている。しかも、そのネットにおいても、大手メディア以上に注目を集めているのが自媒体なのだ。人柄が伝わる個人のほうが信頼できると考えるネットユーザーが多いためだという。

 その意味では、山下さんが目指すミニテレビ局化は、個人のキャラクターと信頼性を売りにしてきた自媒体としての価値に反する部分があるのではないか。個人として勝ち得た信用を守りながら、いかにして媒体価値を発展させていくかが課題だろう。

 実際、自媒体業界では過度な商業化の反動が危惧されている。先日、日本に住む中国人網紅の一人、「林萍在日本」さんに話を聞いたが、「自媒体バブルは2年以内に崩壊する」と断言していた。投資マネーが流入するなか、お金につられてニセモノや粗悪品の宣伝に手を出す網紅が多いのが現状だ。視聴者にこの状況が伝われば、信頼性は失われるとの指摘だった。

 林萍在日本さんも、自身のブランド価値を守るため依頼された仕事を断るケースが多いと話していたが、自媒体業界全体として悪評が高まれば影響は免れられない。

"爆買い"に象徴されるように中国人向けセールスの重要性が高まっているなか、自媒体はきわめて重要なプロモーション・ツールだ。その未来は日本企業にとって無関心ではいられない問題ではないだろうか。

【参考記事】銀座定点観測7年目、ミスマッチが目立つ今年の「爆買い」商戦

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中