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2000億ドルもの中国マネーがアメリカに消えた?

2016年4月1日(金)13時50分
譚璐美(作家、慶應義塾大学文学部訪問教授)

 華僑系銀行は台湾系アメリカ人や華僑一世が開いたものが多いが、10年も前にこんな話を聞いたことがある。カリフォルニアのある華僑系銀行で、ある日、中国語で電話がかかってきた。「おたくの銀行は中国政府に報告義務がありますか?」と聞くので、「ありません」と答えると、その日のうちにトランクに札束を詰めこんだ中国人がやってきて、銀行口座を開設して預けていったという。銀行側も驚いたが、「拒否する理由もありませんしね」と笑っていたという。

 中国人はもともと大金を持ち歩く習慣があり、それを知っている華僑系銀行では、大手銀行とちがい、現金の出所を根掘り葉掘り尋ねることが少ないのだ。これが中国人の資金洗浄の温床になっていると指摘されて久しいが、未だに摘発されたという話は聞いたことがない。

 だいいち、広大なアメリカでは地域性による変則的な事態も現実には起こりうる。例えばニューヨークの場合、日本企業の駐在員が集中するマンハッタン地区にある大手銀行にはジャパンデスクが設けられ、日本人行員が対応して、ソーシャル・セキュリティー・ナンバーを持たない駐在員と家族にも「例外措置」として銀行口座を開設したりクレジットカードを発行したりする。それから類推すれば、中国事情に詳しいシカゴの華僑系銀行が、信用ある提携先から紹介されてくる顧客に「例外措置」を取っていても、おかしくないはずだ。

安全な海外へ向かう「逃避マネー」が深く浸透してきた

 中国人観光客がアメリカで銀行口座を開こうとする目的は、"爆買い"に使う金を貯めたり、将来の子供の留学準備や住宅購入のためであるとされるが、中国政府が昨年10月から個人のクレジットカードに使用制限を設けたこととも関連があるだろう。

【参考記事】アングル:ドバイや英学生寮、中国マネーが狙う海外格安物件

 だが実際のところ、中国から安全な海外へ資産を移そうとする「逃避マネー」の動向が、従来のように富裕層に限ったことではなく、一般の人々の間にも深く浸透してきたとみるべきだろう。中国で消えてしまった個人資産2000億ドルが、こうしたルートを通じて大量にアメリカへ注がれていることは想像に難くない。

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