ブラジルのルラ前大統領、入閣で地に墜ちた輝かしい過去の栄光
国民の多くは権力者が奪い、労働者がその代償を払っていると感じている
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3月20日、支持率90%近くという高水準で大統領職を退いた約6年後、ルラ前大統領(写真)は再びブラジル政治の中心に立つことになった。ブラジリアで17日撮影(2016年 ロイター/Adriano Machado)
支持率90%近くという高水準で大統領職を退いた約6年後、ルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ前大統領(70)は再びブラジル政治の中心に立つことになった。
国営石油会社ペトロブラスを巡る汚職スキャンダルが拡大する中、マネーロンダリング(資金洗浄)などの容疑で訴追されたルラ前大統領は、17日に官房長官に就任した。入閣によって、同氏に対する捜査や起訴には最高裁の承認が必要になり、捜査はより困難になる。同氏の入閣は捜査逃れが目的との見方もでるなか、18日にブラジル最高裁のジウマル・メンデス判事がルラ氏の官房長官への就任を差し止める判断を下した。ルラ氏の弁護団は、最高裁大法廷に抗告を行い、同判事の判断を覆すよう求めており、今後の展開は不透明な状況に陥っている。
ただ、ルラ氏の官房長官就任は、過去に同氏を称賛し聖人視するほどだった国民には予想外だった。長年の支持者でさえ、忠誠心が揺らいでいると話す。
製鉄所の工員から大統領まで上り詰めたルラ氏は、最近まではブラジルの象徴だった。同国経済は数十年にわたり不安定だったが、現在では南米で最大規模に成長した。好調なコモディティー輸出を背景に、ルラ氏の大統領在職中に4000万人の国民が貧困を脱した。
ルラ氏の人気は非常に高く、後任を選ぶ大統領選では、当時は選挙経験のなかったルセフ氏に投票するよう有権者に呼び掛け、ルセフ氏は大統領に就任した。ルセフ大統領は1期目は精彩を欠いたものの、ルラ氏の後押しもあり2014年に再選を果たし、与党労働党は4期連続で政権を担うことになった。ただ当時は、国民の大半はまだ経済鈍化の影響を受けておらず、汚職スキャンダルもルラ氏とルセフ氏に及んでいなかった。
ペトロブラスとの取引をめぐり、党幹部らが業者から数十億ドル相当を不正に得たとされる汚職スキャンダルは、ルセフ大統領の再選後に拡大した。野党勢力はルセフ大統領の弾劾手続きを進め、ブラジル経済はリセッション(景気後退)に直面し、昨年はインフレ率が10%を超える中、150万人が職を失った。
ブラデスコのエコノミストは、2014年以降に中間層から脱落した国民は370万人に上ると推計した。
国民の感じる「裏切り」
現地メディアでは不正に関与したとされる人物のぜいたくな生活ぶりが連日報じられ、苦労して得たものを失った国民の多くは「裏切り」と感じている。