最新記事

分析

世界経済の新たな危機管理は有効か

G20財務相会議は各国の足並みの乱れが目立ったが 「分散型ガバナンス」が経済の打たれ強さを高める

2016年3月16日(水)18時04分
ナイリー・ウッズ(オックスフォード大学ブラバトニック公共政策大学院院長)

笛吹けども ラガルドIMF専務理事はG20の協調努力を訴えたが各国の反応は鈍かった Stephen Jaffe-POOL-REUTERS

 世界各国が協力して取り組まなければ、世界経済の減速を食い止めることはできない──。クリスティーヌ・ラガルドIMF専務理事は、かねてからそんな強い危機感を示してきた。

 OECD(経済協力開発機構)も先月、世界経済の成長を押し上げるには、各国が「緊急」に「結束して」行動する必要があると警告した。

 だが先月、上海で開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、こうした警告に応える具体策を一切示さないまま幕を閉じた。

 確かに共同声明は「(景況への)信頼感を高め、回復を維持・強化する」ために、参加国は「金融的措置、財政的措置、構造的措置を問わず、あらゆる政策手段を個別かつ共同で総動員する」と誓った。

 しかしそこに具体策はなく、むしろ参加国間の意見対立を露呈した。なかでも議論があるのが、成長を促す上での金融政策と財政政策の役割だ。

 共同声明は「(G20は)引き続き中央銀行の責務に沿って経済活動を支え、物価の安定を確保する」という当たり障りのない決意を示すばかりで、「中央銀行は『異次元』金融政策によって景気の刺激を試みるべきか」という肝心な問いには触れずじまいだった。

異次元政策は正しい景気対策か

 しかし国際決済銀行(BIS)は、既にこの問いに「ノー」を突き付けている。BISは昨年、「金融政策は(景気刺激策として)酷使されて」おり「超低金利の長期化」はその表れだと指摘。その結果、過剰債務、低成長、超低金利の悪循環が起きていると、一部の国の政策を批判した。

 それでも日本銀行とECB(欧州中央銀行)は、さらなる利下げに踏み切った。中国人民銀行の周小川(チョウ・シアオチョアン)総裁もG20で、成長を喚起する役割をもっと担う意欲を示した。

【参考記事】誰が金融政策を殺したか(前半)/obata/2015/09/post-1.php

 しかし中央銀行トップがみな同じ考えというわけではない。

 インド準備銀行のラグラム・ラジャン総裁は、異次元金融緩和が当事国だけでなく諸外国に与える影響も分析してほしいと、IMFに要請した。イングランド銀行のマーク・カーニー総裁は、マイナス金利は通貨安競争を招き、需要低迷を輸出することになると批判した。

 財政措置による景気浮揚についても、G20の見解にはばらつきが見られた。IMFは、ドイツのような財政黒字国はもっと積極的な景気刺激策を取るよう促している。OECDも、財政に余裕のある国は現在の超低金利を利用して資金を調達し、公共投資を増やすよう訴えた。

【参考記事】リフレ派が泣いた黒田日銀のちゃぶ台返し/iwamoto/2016/02/post-15.php

 しかしドイツのウォルフガング・ショイブレ財務相は、そんなのは「借金頼みの成長戦略」だとして猛反発。G20の共同声明は、「財政政策の柔軟性を駆使して、成長、雇用創出、信頼感を強化する一方で、レジリエンス(打たれ強さ)を高めて、債務(対GDP比)を持続可能な水準に維持する」という、ありきたりな表現になった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中