最新記事

分析

世界経済の新たな危機管理は有効か

2016年3月16日(水)18時04分
ナイリー・ウッズ(オックスフォード大学ブラバトニック公共政策大学院院長)

 現在の世界経済を考えると、G20が金融政策と財政政策の在り方について一致できないのは、非常に危険なことのように思える。資本の急激な流出入、原材料価格の低迷、地政学的緊張、イギリスのEU離脱の可能性、難民危機など、世界経済を取り巻く環境も不透明性が高い。

 だが、実は世界の「協調低下」がもたらすリスクは、10年前と比べるとずっと小さい。今は経済のグローバル化が抱えるリスクへの認識が高まり、国家レベル、2国間レベル、あるいは地域レベルで打たれ強さを高める努力が広く見られるのだ。

【参考記事】アメリカがグローバル経済の牽引役に返り咲く日/stories/us/2015/10/post-3970.php

 例えば金融。20年ほど前、タイ発の通貨危機がたちまちアジア全体に飛び火して、多くの国で経済危機が起きた。このときの教訓から、新興国は莫大な外貨準備を蓄えて、新たな危機に備えるようになった。実際、95年に世界のGDPの5%程度だった外貨準備は、現在15%にまで膨らんでいる。

 さらに新興国は、公的債務を減らし、通貨スワップ協定を結ぶなどの通貨危機防衛策も講じてきた。また、08年の世界金融危機以降は、金融システム全体のリスクを分析して対策を講じる「マクロプルーデンス政策」が、世界40カ国以上で採用されるようになった。

IMFの役割も変わる

 一昔前と比べると、新興国が資金調達する方法も増えた。国際的な債券市場で調達できるようになった途上国もある。アフリカ開発銀行やアジア開発銀行(ADB)、米州開発銀行といった地域開発銀行の役割も拡大している。

 この「分散型経済ガバナンス」とも呼ぶべき新しい協力パターンは、貿易でも見られる。WTO(世界貿易機関)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)は挫折したが、さまざまなFTAにより、貿易の自由化は急ペースで進んでいる(TPPのような「超」地域貿易協定と呼べるものもある)。

 こうした新しいガバナンスの形態が生まれても、伝統的な多国間機関が不要になるわけではない。むしろIMFや世界銀行、WTOといった国際機関は、自らの役割の一部を担ってくれる新しい機構に、重要な情報を提供する役割を担うべきだ。

 例えば、IMFはラジャンの要請に応えて、異次元金融緩和の対外的な影響を分析するべきだ。ある国の資本管理が諸外国に与える影響も分析してほしい。IMFは、利回りをGDPに比例させる連動債などを利用した政府債務の削減方法を研究して、提案する役割も果たせるだろう。

 G20の政策当局者たちは上海で、世界経済の成長を後押しするとともに通貨戦争を回避するため、あらゆる政策を総動員すると約束した。

 その約束は果たされていない。しかしそのせいで、分散型経済ガバナンスという、新しい協調形態へのシフトは一段と確実になった可能性がある。

@Project Syndicate

[2016年3月15日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は急反発、2675円高 中東情勢の早期収束

ビジネス

アングル:日経平均の底堅さは本物か、「離れ小島」リ

ワールド

EU議員団が訪中、中国製品の安全性と市場開放で圧力

ビジネス

午後3時のドルは158円後半でほぼ横ばい、イラン情
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 5
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 6
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 7
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中