最新記事

iPhone

「解除拒否」アップルの誤算

テロ捜査という大義名分を突っぱねた結果、世論を敵に回し政府の思うつぼにはまることに

2016年3月3日(木)17時00分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

永遠の戦い 暗号化技術と通信の秘密保持の未来が懸かると言うが(iPhone5cの北京での発表会) Jason Lee-REUTERS

 1台のⅰPhoneのロック解除をめぐるアップルとFBIの小競り合いが、なぜか全面戦争の様相を呈してきた。プライバシーと国益の対決、全ハイテク業界と米連邦政府の対決という構図だ。

 アップル陣営に言わせれば、この戦いには暗号化技術と通信の秘密保持の未来が懸かっている。対するFBIは、同社の主張が通れば犯罪者やテロリストを追跡するための情報収集ができなくなると主張している。

 どちらの言い分も大げさ過ぎて、額面どおりには受け取れない。それでも筆者は、アップルのCEOティム・クックは計算違いをしていると思う。

 そもそも法廷闘争には時間がかかるし、アップル側の主張の根拠は弱い。運よく裁判に勝てたとしても、怒った政治家が法律を変えてしまう可能性が高く、そうなればクックの掲げる理想を守ることはできない。

 FBIが求めているのは、昨年12月にカリフォルニア州サンバーナディーノの福祉施設で起きた銃乱射事件の実行犯の1人、サイード・ファルークが使っていたⅰPhone5cのロック解除だ。この人物はテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の同調者で、事件はテロ行為と認定されている。

【参考記事】iPhone 6s、中国人は「ローズゴールド」がお好き

magt160303-02.jpg

盛り上がらず? 政府に抵抗するアップルの支持者もいるが数は少ないようだ(支援集会) Lucy Nicholson-REUTERS


 厳密に言うと、FBIはアップルにロック解除を求めているわけではない。そもそも今のⅰPhoneではユーザーが独自にセキュリティーコードを設定できるようになっているから、同社のエンジニアでも勝手にロック解除はできない。

 そこで賢明なるFBIは、「何者かが間違った暗証番号を10回入力したらⅰPhoneの全データを消去する」機能を無効にするよう要請した。そうすれば政府側は、1秒に何万通りもの暗証番号を自動作成するソフトを用いて、「力ずく」でロックを解除できるはずだ。

 しかしアップルは協力を拒んだ。だからFBIは法廷に訴え出た。そして法廷はアップルに、捜査へ協力するよう命じた。対してクックは2月半ばに顧客宛ての公開書簡を発表し、政府のやり方は行き過ぎだと非難。ⅰPhoneを脆弱化するソフトの作成はアップルの全システムを脆弱化することにつながる、そんなソフトがコピーされて悪意ある第三者の手に渡れば大変なことになると訴えた。

【参考記事】テロ捜査の地裁命令にアップルが抵抗する理由
【参考記事】アップル発、金融業界の大異変

 FBIはこう反論した。当方はアップルに、すべてのⅰPhoneに情報抜き取りの「裏口」を設けろとは求めていない。対象はテロリストのⅰPhone1台だけだ。十分な対策を講じれば無効化ソフトの外部流出は防げるとも主張している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中