「解除拒否」アップルの誤算
クリントン政権でテロ対策とサイバー攻撃対応を担当したリチャード・クラークが自身のフェイスブックにこう書いている。「アップルとFBIの対立に関しては2つ可能性を考えるべきだ。1)NSAならデータを解読できるはずだが、FBIはアップルにやらせることで法的な先例を作りたい。2)そもそもFBIの捜査には必要ないが、サンバーナディーノ銃撃事件は大きく報道されたので、その悲劇性を強調することによって、FBIのロック解除要請に対する国民の共感を得ようとしている」
言い得て妙かもしれない。ブルームバーグ・ビジネスウィーク誌は、NSCが昨年後半に政府機関に回した「決定覚書」について報じた。アップルのiPhoneに使われているような暗号ソフトを破り、厳重に保護されたデータにアクセスする方法を探すよう指示し、法改正の可能性にまで触れた覚書だ。
今回の一件は政府にとってまたとないチャンスだろう。クックはまんまと罠にはまってしまったのかもしれない。
彼が個人情報の保護の重要性を固く信じていることは確かだ。一方、ドナルド・トランプは政府に抵抗するアップルを「何様だと思っているんだ」と罵倒した。トランプ嫌いでも、アメリカ人の大多数が彼の言葉に共感したのではないだろうか。
政治家も同じだろう。もしアップルが裁判に勝てば、この分野における政府の権限を大幅に強化し、ハイテク企業のプライバシー保護の権利を大幅に制限する法案が出されるのは必至だ。成立の可能性も大きいだろう。
クックの友人やライバル企業(その多くは政府の仕事もしている)が本気で彼を応援しないのはそのせいだ。アップルの立場を支持するサイバー関係の元官僚は筆者に言った。「クックは水面下で政府に協力すればよかったのだ。このケースの結末は分かり切っている。彼の抵抗は印象がよくない」
遠からず、クックもそれを思い知るかもしれない。
© 2016, Slate