日本にもスタートアップの時代がやって来る
加谷氏をモデレーターとして実施した座談会「これからの日本の起業家たち」を、前後編の2回に分けて掲載する。
加谷 だれもがネット環境に簡単につながる時代になり、その一方で、価値観が多様化してマス・プロダクトを売りづらくなっている環境のなかで、起業家たちはどういうことを考えてビジネスをしているのか。
私が社会人になった頃はちょうどパソコンブームで、OEMでパソコンを作るベンチャー企業がいっぱい出てきたんです。でも、まだまだマス・プロダクトの延長でした。2000年代に入るとネットビジネスの世界になり、多くの企業がサービスを立ち上げて、その代表が楽天の三木谷さんなんかだと思います。つまり、サービスの時代になった。
しかし、価値観が多様化していることもあって、いままたモノに対する興味が湧いてきているのではないかと思います。ふたたびモノの時代になるのではないかと。
そんなわけで、今日はモノづくりで起業したおふたりに来ていただきました。まずは、どういう経緯で、どういう思いでモノづくりをするようになったのかをお聞かせいただけますか?
中澤 私はもともと、カシオ計算機で携帯電話の企画、プロダクトマネジメントをしていたんですが、私が入社した2007年の時点で、すでにモノづくりは飽和していて、どんどんスペックを上げて競争するという負のスパイラルの真っただ中でした。だから、いちばん苦しくて、つまらないと言われる世代だったんです。
しかも、先輩はみんな15歳以上も年上で、楽しかったころの話を聞かされては、「昔はいいな~」と思っていました。さんざんモノづくりを楽しんできて、いまはダメだと嘆く世代と、これからメーカーでモノづくりをしようとする私たちとでは、モノづくりに対する考え方も全然違っていました。
加谷 携帯電話は一時期、かなりスペック競争が激しくなっていましたから、そのころに開発をしていたら、確かにやりがいもあって、楽しかったでしょうね。
中澤 私が入社して5年で、ほとんどの携帯電話メーカーが淘汰されて、カシオもNECに統合されることになりました。モノづくりは素晴らしいよと言っていた人たちも、みんなバラバラになってしまったんです。でも、そこであきらめたくなかった。
どうやったらモノづくりに戻れるだろうってずっと考えていたんですが、実はその間に、カフェを始めたんです。自分の手でお店を作って、メニューを考えて、お客さんの反応を見ながら工夫して......というのはモノづくりと一緒で、ものすごく面白いんですが、やっぱり電気が通ったモノづくりをしたいなって、ずっと思っていました。