最新記事

アフリカ

アフリカの「飢餓ベルト」に栄えるテロ組織

相次いでテロ攻撃を受けたマリとブルキナファソは対テロ共同戦線を張ると誓ったが

2016年1月19日(火)17時18分
コナー・ギャフィー

厳戒態勢 テロリストから奪還した高級ホテルでは多くの死者が(ブルキナファソ) Joe Penney-REUTERS

 西アフリカのブルキナファソと北の隣国マリは、この地域で活動を活発化させている武装グループとの戦いに共同で取り組むことになった、とロイターが報じた。

 きっかけは1月15日、ブルキナファソの首都ワガドゥグ市内の4つ星ホテルやカフェが相次いで武装グループに襲われ、少なくとも28人の死者が出た事件。「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織(AQIM)」が犯行声明を出した。

 その2カ月前には、マリの首都バマコにあるホテルが武装グループによる襲撃を受けて約20人が殺害される事件が起きたばかり。この襲撃事件でもAQIMが、アルカイダの分派「アルムラビトゥン」と共同で犯行声明を出している。アルムラビトゥンは、アルジェリア人の活動家、モフタール・ベルモフタールが率いるテロ組織だ。

 マリのケイタ首相は1月17日、ブルキナファソのティエバ首相を訪問して団結を表明。AQIMをはじめとするテロ集団の脅威と戦うために情報共有や合同警備に当たることを誓った。「ブルキナファソとマリは、力を合わせてテロと戦う」とティエバは強調した。

マリ北部はテロ集団の温床

 両国が位置するサハラ砂漠南部のサヘル地域では、武装グループの脅威が増大している。北のサハラ砂漠と南の熱帯アフリカの間でアフリカを横断するこの一帯は、乾燥して食糧生産に向かないことから「飢餓ベルト」とも呼ばれる貧しい地域。

 同地域を担当するイルーテ・ゲブレ・セラシ国連特使は2015年11月、サヘル地域に住む最大4,100万人の若者が、教育と雇用機会の欠如により過激化の危険にさらされていると警告した。

 マリ北部は、数年前から武装グループの温床になっている。2012年に遊牧民のトゥアレグ武装勢力が自治拡大を求めて反乱を起こすと、AQIMなどの過激派勢力がこれに乗じてマリ北部の大部分を制圧。2013年にフランス軍に撃退された。

 ブルキナファソのワガドゥグに到着したケイタは、マリは「こうした出来事を経験してきたし、今も経験し続けている」と語り、ブルキナファソと共に「テロとイスラム過激派と戦う」のがマリの義務だと述べた。

 ブルキナファソのホテル襲撃事件では結局、フランス軍とアメリカ軍の支援を受けた治安部隊が犯行グループからホテルを奪還した。AQIMは1月18日に犯行声明を出し、この敗北を「地球規模のジハードという大海に落ちた水滴のようなもの」と表現した。

 リスクコンサルタント会社「アフリカ・マターズ・リミテッド」で政治アナリストを務めるイマド・メスドゥアは、サヘル地域の国々が協調することは、武装グループに立ち向かう上で非常に重要であるものの、各国にどれだけ協力の政治的意志があるかどうかは不明だと語った。「協調の掛け声はこれまでもずっとあった」と、メスドゥアは言う。「今回は正式に協調が表明されたが、それをどのように実行に移すかという具体的な内容はほとんど語られなかった」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中