最新記事

高速鉄道

インド、日本の新幹線を採用――中国の反応と今後の日中バランス

2015年12月15日(火)16時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

親密さをアピール  訪印中、インドのモディ首相と自撮りを試す日本の安倍首相 Jonathan Ernst-REUTERS

 インドの高速鉄道建設に関して日中は長いこと競争してきたが、12日、日印両国の首脳会談により日本を選ぶことが決まった。中国政府は不満を表明。中国の世論とともに今後の日中のゆくえと中印両国の可能性を追う。

中国の反応

 安倍首相は12月11日からインドを訪れ、12日にモディ首相と会談してインド西部(ムンバイとアーメダバードを結ぶ)高速鉄道建設や安全保障問題などに関して話し合った。その結果、インドは日本の新幹線を採用することに決め、東部や南部の道路に関するインフラ整備や北部の農業支援などに4000億円の円借款を拠出することになった。また原子力発電に関しても日本の技術を核兵器に転用しないことを条件に、日本の原子力関連技術の輸出が可能となる原子力協定の締結で合意した。

 インドの空気汚染、特にPM2.5による被害は中国を抜いているので、原発による電力保障はインドにとって喫緊の課題だろう。この問題は日中間の競争がないので、ここでは省く。まずは、日中間で激しい競争をしてきた高速鉄道に関する中国の反応を見てみよう。

 中国政府の反応として、9日の時点で今般の結果が分かっていたので、外交部の華春瑩報道官は9日の記者会見で記者の質問に対して「どの国にも自国の協力相手と協力方式を選ぶ権利がある。インド側の決定と選択を、われわれは尊重する」と述べた。

 しかし、その一方で中国政府としては不満でならない。

 なぜなら習近平国家主席とモディ首相は、互いに相手国を訪問し、それぞれ自分の故郷を紹介するところまで緊密度を増していた。

 5月19日付の本コラム<龍と象の「一帯一路」――中印蜜月、「紅い皇帝」のもう一つの狙い>にも書いたように、「紅い皇帝」習近平が自ら西安に赴き、訪中したインドのモディ首相を歓待したのは、昨年9月に習近平国家主席がインドを訪問したとき、モディ首相が自分の故郷であるグジャラートで習近平国家主席を歓待したお返しだ。

 このとき習近平国家主席は、「社会主義的価値観」を嫌うインドを意識して、「文化」「伝統」に光を当て、「中印は同一の価値観」を持ち、古代文明発祥の地の王座を共有していると、モディ首相に印象づけようとした。

 これらの相互訪問によって、インドの高速鉄道建設は「もう中国のものだ!」と中国は確信していたのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国GDP、第1四半期は前年比+5.4% 消費・生

ビジネス

報復関税、中国の医薬品価格押し上げか 大手各社が米

ビジネス

午前のドルは142円後半へ小幅安、日米交渉前に手控

ビジネス

中国新築住宅価格、3月は前月比横ばい 政策支援も需
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 2
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ印がある」説が話題...「インディゴチルドレン?」
  • 3
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 4
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 6
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 7
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 8
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    そんなにむしって大丈夫? 昼寝中の猫から毛を「引…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中