最新記事

南シナ海

ASEAN国防拡大会議、米中の思惑――国連海洋法条約に加盟していないアメリカの欠陥

2015年11月4日(水)18時58分
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 もし本気で中国を制裁したいのなら、国連の場で戦えばいい。
国連には「国連海洋法会議」があり、また準拠する法律として、「国連海洋法条約」がある。そこには「人工島」に関しても明記してある。中国もこの条約に加盟しているので、平和裏にというか、「武力による威嚇」ではなく、「論理武装による討議」で多数決議決をして中国を屈服させればいいのである。特にオバマ大統領はノーベル平和賞を受賞しているのだから、「中国が国連海洋法に違反している」というのなら、なおさらのこと、そうすればいいのではないかと、誰しも思うだろう。

 ではなぜ、アメリカは、そういう手段に出ないのか?

 それは、何を隠そう、アメリカこそが、この国連海洋法条約に加盟していないからである!

 なぜ加盟していないかというと(というよりも、なぜ最初は主導的立場にありながら脱退したかというと)、アメリカ企業にとって不利だからだ。海洋法を守ると、アメリカ企業による深海開発に不利だということから脱退し、今日に至っている。

 そのアメリカが「国際法」をかざして武力的な威嚇をすること自体、本末転倒ではないだろうか?

 日本政府は、「法の順守」と言いながら、法から逸脱して動いているアメリカに全面的に賛同している。

 それに対して、中国は1996年に加盟している。日本も同年、批准した(加盟した)。

中国のしたたかな戦略

 中国が、南シナ海における行動を合法的とする法的基盤となっているのは、4月21日付けのの本コラム「すべては92年の領海法が分かれ目――中国、南沙諸島で合法性主張」に書いたように中国の領海法だ。

 この領海法は、日本が1895年に閣議決定して日本の領土であることが明確になっている尖閣諸島を中国名「釣魚島」として、中国の領土としてしまった。明らかなルール違反である。

 日本は瞬時に国際司法裁判所に提訴しなければならなかったが、何もしなかったのは、何度も書いてきた通りだ。しかし、いま現在、手がないわけではない。日本も中国も国連海洋法条約を批准しているので(加盟しているので)、国連海洋法会議で、違法性や不適切性などに関して指摘し、是正を求めるという方法が、まだ残っている。

 しかし、アメリカは海洋法に関しては、自らが加盟していていないために、国連で討議しようとはしない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、インド向けエネルギー・防衛装備の販売拡大を検討

ビジネス

ECB、近く物価目標達成も 不確実性高く政策予測困

ビジネス

IMF、日本の成長率見通し引き下げ トランプ関税の

ビジネス

IMF、新興国の成長率見通し引き下げ 資金調達問題
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 4
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 5
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 6
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 7
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 8
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 9
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 10
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中