ASEAN国防拡大会議、米中の思惑――国連海洋法条約に加盟していないアメリカの欠陥
こういった全体的な状況をASEAN諸国が理解しているのかどうかは定かでないが、中国は心得ている。
そしてこの中国もまた、自国の領海法に違法性があるのを知っているので、ひたすらASEAN諸国を懐柔する手法に出ている。
実は明日5日には、習近平国家主席は、最もランクの高い国事訪問(公式訪問)としてベトナムを訪問する。中国の中央テレビ局CCTVは、ベトナムの首脳らが、いかに熱烈に習近平国家主席の来訪を待っているかを、テレビが燃え上がるほどにくり返し報道している。
もちろんベトナム指導層の熱烈歓迎の言葉も数多く「肉声で」発信されており、とてもとても、ASEAN国防相会議で、中国を制裁しようなどというムードではないのである。
日本のメディアでは、フィリピンやベトナムなど少なからぬ国がアメリカとともに中国制制裁に動くだろうという(やや挑戦的ムードの)報道が散見されたが、いかがなものだろうかと思いながら、執筆をしながらBGMとして聞いていた。
中国のしたたかな外交の真相を深く知らないと、ミスリーディングをしてしまう危険性を孕んでいる。
アメリカが、大統領選のために仕掛けた「威嚇」は、ASEANでは、否定された格好だ。
アメリカともあろう大国が、習近平国家主席が翌日にベトナムを国事訪問するという「ビッグ・イベント」を控えている11月4日に、ASEAN国防拡大会議などを開いて、中国制裁の共同声明を出すことができると読んだのだろうか?
中国のしたたかさは、そのようなものではない。今回は、アメリカの誤算としか言いようがない。
[執筆者]
遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。