ヒラリーと民主党を救った社会主義者サンダース
大統領選候補の公開討論会で見えた民主党の新しいリベラル路線
思わぬ伏兵 サンダースは、クリントン優位で進む指名獲得レースで意外な存在感を見せつけた Joe Raedle-GETTY IMAGES
先週行われた米民主党の大統領選予備選の候補5人による公開討論会がお決まりの泥仕合に陥らなかったのは、バーニー・サンダース上院議員の手柄だ。
司会を務めたCNNのアンダーソン・クーパーは、「アメリカの大統領選挙で社会主義者が勝てるだろうか」とサンダースに問いただした。社会主義者を自称する最左派のサンダースは、ひるむことなく北欧式の社会民主主義を擁護した。
これに対し、ヒラリー・クリントン前国務長官は真摯な言葉で資本主義を擁護した。「アメリカはデンマークとは違う。私はデンマークが好きだ。でも、アメリカがやるべきことは、行き過ぎた資本主義の手綱を締め、今の経済体制にみられるような格差を生まないことだ。史上最大の中流階級を築いてきたものに背を向けるのは、由々しき間違いだろう」
ここで守勢に立たされたのは、サンダースではなく資本主義だった。その意味で、サンダースはアメリカの進歩主義を大きく前進させている。
実際、討論会の勝者はクリントンだったが、議論はサンダースを軸に進んだ。クリントンは最初から、サンダースの支持層に訴えようと努めていた。
進歩主義的な政策を最もうまく遂行できるのは誰かという話になると、クリントンは、「私たち候補者は目標については合意している。意見が分かれるのは手段だけだ」と言った。サンダースが国民皆保険に近い社会保障を目指していることを考えれば、驚きの発言だ。
民主党は、社会保障制度は財政破綻の危機にあるという保守派の前提に立ってきた。しかし今回、社会保障の拡充について、クリントンは「最貧困層への支援を増やしたい」と語った。
不法移民に対しても州内居住者と同じように大学の学費を優遇している州については、クリントンは次のように述べている。「そうした州を支持し、より多くの州が同じ対応をするように奨励していきたい」
個人攻撃を封印した一言
銃問題でもクリントンは左派を意識し、サンダースが規制強化に反対してきたと批判した。「国を挙げて全米ライフル協会(NRA)に立ち向かうべきだ」
討論会には、ベトナム戦争で従軍経験があり、レーガン政権で海軍長官を務めたジム・ウェッブ元上院議員もいた。8年前はオバマの副大統領候補として有力視された彼が、場違いな過去の亡霊に見えたことは、民主党が中道路線にこだわるのをやめて、堂々とリベラルを主張しつつあることを物語る。