最新記事

安倍外交

安倍首相中央アジア歴訪と中国の一帯一路

2015年10月26日(月)16時40分
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 しかし、あの巨額の「ばらまきチャイナ・マネー」に対して、日本も「金」で、というのは控えた方がいい。

「大河の一滴」に相当する効果があるのなら、チャイナ・マネーの「大河」に「一滴」のジャパン・マネーを注ぐのも悪くなかろう。しかし現状では「金額」で勝負に出ても日本国民の利益につながるとは思いにくい。金で勝負するなら、中国はもっと巨額のものを注ぎ、中央アジア諸国は漁夫の利を狙うだろう。

 そういうことではなく、遅すぎたとはいえ、技術提携とか安心といった、中央アジア諸国の心理を読むことが不可欠だ。

 かつてはソ連に併合され、今は中国の属国になりそうなこれらの国々は、その意味での、ある種の「不安」も抱えており、新たな「光」を求めているはずである。

 中央アジア5カ国は、旧ソ連という「共産主義政権」の下で苦しみ、そこから独立した国々である。

 今はロシアとも、共産主義政権の中国とも仲良くやってはいるが、彼らのメンタルとして「共産主義」が好きだろうか?

 そのことに注目するといい。

 現に日本時間の25日、ウズベキスタンのカリモフ大統領は日本の関与を「最も透明で効率的な動きをしている」と高く評価している。

 また多くの民族や宗教が入り混じっているため、安全保障を確保する目的で、前述したように中国と上海協力機構を構成している。中国にとってはウイグル人の反乱を抑えるためにも利用しているが、中央アジア諸国の多くは、乱れを生じさせないために、実はかなり大統領権限が強い共和制を布いている。

 以上の要素を複合的に考慮し、これからは首脳同士の接触を緊密にして、「金」ではなく、日本の最先端技術とさまざまな「安心」における協力を進めていくといいのではないだろうか。

[執筆者]
遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数

※当記事はYahoo!ニュース個人からの転載です。

 

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中