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タイ

なぜバンコク爆発事件でウイグル族強制送還報復説が浮上しているのか

2015年8月31日(月)12時10分
舛友雄大(シンガポール国立大学アジア・グローバリゼーション研究所研究員)

 多くのトルコ人は言語的、文化的、宗教的な親しみからウイグル族を「兄弟」とみなす。これまでも国内でウイグル族密入国者を厚くもてなしてきた。今年6月18日にラマダン時期に突入して以来、うわさに基づく誤情報も含め、中国の新疆ウイグル自治区で当局が宗教活動を制限しているという話が伝わると、トルコ国内で反中感情が高まった。それまで断続的に続いていた中国大使館前での抗議活動は、タイ政府がウイグル族の強制送還を許したという報道を受け最高潮に達した。激高したデモ参加者はイスタンブールのタイ領事館を襲撃し、窓ガラスを打ち砕いたり、タイ国旗を降ろしたりした。

 イスラム国の興隆を念頭に、東南アジア各国はテロへの警戒を強めていたところだった。例えば、観光に力を入れてきたシンガポールのリー・シェンロン首相は5月のシャングリラ・ダイアローグ(アジア安全保障会議)で、イスラム国が東南アジア諸国の政府権力から離れたところで領土をもつ可能性に言及し、「東南アジアでのどこかで拠点をつくると考えても不思議でない」と述べた。国内でテロが一旦起こると、LCCの発達などの恩恵を受けて増えてきた海外旅行の増加に冷や水を浴びせかねないという懸念がある。

 今回の事件がどのような動機に基づいているのかは捜査の進展を見守るしかない。だが、万が一、海外勢力による組織的なテロだと判明すれば、その影響は観光業にとどまらず、国際関係にも及ぶ可能性がある。

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