最新記事

戦勝70周年

中国軍事パレードの主たる狙いは「抗日」ではない

戦勝70周年軍事パレードで腐敗摘発や不安定化した中国社会を再び団結させるための最優先課題はアメリカと同等の力を見せつけることだ

2015年8月27日(木)17時38分
小原凡司(東京財団研究員)

士気も高い? 軍事パレードへ向けて訓練に励む人民解放軍部隊(22日) Damir Sagolj-REUTERS

 8月22日深夜から23日にかけて、さらに24日にも、北京の天安門前の長安街で、9月3日に挙行される「中国人民抗日戦争及び世界反ファシスト戦争勝利70周年記念軍事パレード」の予行演習が行われた。

 日本では、22日深夜の予行演習が「厳戒態勢下で」行われたと報じられたが、中国で報じられた記事からは、24日の予行演習に多くの市民が見学に詰めかけた様子が伺える。民衆に比較的人気のある軍事パレードに、今年は、特別な意味が込められている。
この軍事パレードは、社会の安定化を図る絶好の機会だ、という中国人研究者もいる。中国国内では、習近平主席が展開する反腐敗や改革によって中国社会が不安定化している、と自認されているのだ。

 戦勝70周年を記念する軍事パレードに、不安定化した社会を一つにする効果が期待されているのはなぜだろうか。そこには、中国指導部が、軍事パレードに込める意味が関係している。

第2次大戦の戦勝国として認められたい

 中国が、単に「抗日戦争勝利70周年記念」と呼ばず、「世界反ファシスト戦争勝利」を加えているのは、中国が第2次世界大戦の勝者であることを誇示したいからだ。中国は、連合国の一員として、世界と協力してファシストを倒した、と言いたいのである。
そして、重要なのは、ここからだ。中国は、勝者として、本来、国際規範を作る側にいるはずだったが、国力の低さゆえに、欧米に好き勝手に国際規範を作られてしまった。「国際社会は、不公平と不平等が突出している」という外交部などの発言に、こうした意識が表れている。これは、「これから中国の番なのだ」という意識の裏返しでもある。

 具体的に、中国がどのように国際規範を、「中国にとって公平」なものとしていきたいのかは、中国が自ら答えを示している。米中「新型大国関係」である。米中両大国が、国際社会のルールを決めていくというのだ。

 軍事パレードは、「中国には今やその能力がある」ことを示す機会でもあるのだ。そのために、パレードでは、その能力を効果的に示す新型兵器がお披露目されるのである。その能力とは、「米国と対等な能力」という意味だ。

アメリカに劣らない新型兵器を披露

 中国の報道では、J-15戦闘機、J-20戦闘機、H-6K爆撃機、KJ-500空中警戒管制機、Il-78空中給油機、高新-6号対潜哨戒機、Y-20大型輸送機といった航空機の名前が挙げられている。

 いずれも新型航空機であるが、米国を意識した陣容でもある。J-15戦闘機は、空母艦載機だ。J-20は、中国が、米国のF-22に匹敵するとするステルス戦闘機である。H-6Kは、約3500キロメートルの作戦半径を持ち、搭載できる長剣-10巡航ミサイルの射程と合わせて、グアム島の米軍基地を制圧できると豪語する。KJ-500は、南シナ海等、中国周辺で活動する米軍機を監視できる。Il-78は、戦闘機の滞空時間を延ばすために不可欠だ。

 しかし、航空機は、ヘリコプターを除いて、通過速度が速い。各国首脳を始めとする観客に印象深いのは、目の前をゆっくり移動する地上の大型兵器である。特に、米国と対等な立場を誇示したい中国が見せたいのは、大陸間弾道ミサイルだろう。核抑止こそ、米国との対等な力を示すものだからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中