最新記事

ロシア

矛盾だらけ、ネムツォフ殺害は「イスラム過激派の犯行」説

ロシア当局はイスラム過激派の仕業と断定したが、動機から黒幕の存在まで多くの謎が残っている

2015年3月10日(火)18時08分
ジョシュア・キーティング

真犯人? ロシア当局に拘束されたチェチェン人、ダダエフ Tatyana Makeyeva-Reuters

 ロシアの野党指導者ボリス・ネムツォフの殺害事件の犯人をめぐって、プーチン政権や政府系メディアはさまざまな説を流してきた。嫉妬に駆られたネムツォフの昔の恋人説、ウクライナの右派勢力説、野党指導者同士の仲間割れ説、CIAやヒラリー・クリントンの陰謀説......。

 だがここにきて、当局はついにある「結論」にたどり着いた。犯人は、ロシア南部のチェチェン共和国の分離独立を求めるイスラム過激派の仕業だというのだ。

 ロシア当局は3月8日までに5人のチェチェン人容疑者を拘束。元警官を含む2人が訴追され、残る3人も取り調べを受けている。6人目はチェチェンの首都グロズヌイで警察に包囲されて自爆した。

 彼らがネムツォフの命を狙った理由としてチェチェンのラムザン・カディロフ首長は、イスラムを侮辱するネムツォフへの怒りを挙げている。カディロフによれば、イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を掲載したフランスの週刊紙シャルリ・エブドをネムツォフが支持したことについて、訴追されたチェチェンの治安部隊副司令官ザウル・ダダエフは「イスラム教徒として激しいショックを受けていた」という。ロシアの検察当局も、ネムツォフの殺害直後に同じような見解を示していた。

 だが、シャルリ・エブド事件が引き金になったという説は、現実味に乏しいようだ。確かにネムツォフはイスラム過激派によるシャルリ・エブド襲撃を非難していたが、それはプーチン大統領も同じだ。ロシアのラブロフ外相に至っては、パリで行われた追悼デモ行進にも参加している。

 シャルリ・エブド襲撃事件の後、ネムツォフは現代のイスラム教と宗教裁判が行われていた当時のキリスト教を比較する記事をブログに投稿している。彼は、イスラム教もいずれは「成長」し、テロは過去の話となるだろうとしたうえで、テロを非難し、世俗国家を守るべきだとの持論を展開した。

 これは、ロシアやアメリカと比べてもかなり穏やかな主張だ。ネムツォフはもともと宗教的な発言で目立つタイプではなかった。また、ロシアのイスラム過激派は、リベラル派の反政府勢力よりも、チェチェンの分離独立運動を武力で封じ込めたロシア政府に怒りの矛先を向ける傾向にある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中