オーストラリア「招かれざる客」を追い払え!
「国境を守る」ため打ち出したのは、人権を脇に置いてでも難民を追い返す政策だった
1隻たりとも アボット首相は難民船の阻止に執念を燃やす Graham Denholm/Getty Images
わが国に不法に入国しようとする難民船は1隻残らず追い返す──そう威勢よく公約して13年秋にオーストラリア首相となったのが、保守系の自由党党首トニー・アボットだ。政治家の公約なんて選挙が終われば紙くず同然、と思ったら大間違い。この男は本気だった。
あんなに広くて人口密度の低い国なのに、しかも国連難民条約に加入しているのに、オーストラリアは欧米先進国に比べると難民の受け入れ数が極端に少ない。「国境を守る」ためにアボットが奮闘してきたからだ。
■「難民船の阻止」
アボットは昨年12月に議会で、「過去12カ月間、ほぼ1隻たりとも」難民船は上陸していないと語っている。だが、それを実現するために彼が何をしたかは明かさなかった。
実際には海軍が出動し、難民船の上陸を力ずくで阻んでいた。粗末な船に乗り込み命懸けで海を渡ってきた人々が正当な政治亡命者であるか否かを確かめることもなく、すべての難民船を出港地(たいていはインドネシア)へ追い返していたのだ。
■あからさまなポスター
海軍の監視をくぐり抜けて運よくオーストラリアに上陸できても、決して「定住」は許されない。この強い意思を周知するため、オーストラリア政府は露骨なポスターを制作した。海に浮かぶ難民船の絵に赤い大きな文字で「オーストラリアはあなたたちの故郷にはならない」という文章を重ねたもので、政府のホームページに17カ国語で掲載されている。
政府制作のビデオもある。そこには国境保全作戦を指揮するアンガス・キャンベル中将が制服姿で登場し、穏やかな口調で「単純なことです。違法に船でオーストラリアに上陸しても、この国を故郷にすることはできません」と語っている。
■豪州版グアンタナモ
公平を期すために言えば、この国はアボット以前から、正規の難民申請手続きを経ずに船で不法入国しようとする外国人を第三国の難民収容所に、名目上は「一時的」に移送する政策を採用してきた。送り先はパプアニューギニアと、太平洋の小さな島国ナウルである。
だがパプアニューギニアのマヌス島にある収容所を視察した国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによれば、そこでの収容者の扱いは「残酷で屈辱的」であり、「彼らが出身国に帰るよう促す意図的な試み」だと批判している。
昨年11月下旬には複数の収容者がアメリカとカナダの当局に書簡を送り、自分たちは「オーストラリア版グアンタナモ」に拘束されていると訴え、難民としての受け入れを懇願している。