タイ首相のクビを切った司法クーデターの行方
インラック首相突然の失職で分かった軍部や裁判所、王政派など本物の実力者たち
戻る場所はない 判決は不当だと訴え支持者に手を振るインラック Borja Sanchez-Trillo/Getty Images
この数カ月、あの手この手で自分を首相の座から引きずり降ろそうとする勢力をかわしてきたタイのインラック首相だが、ついに屈することになった。46歳の温厚な彼女は、もう首相ではない。先週、憲法裁判所により「倫理を欠いた」行為があったとして違憲判決を言い渡され失職した。
インラックの倫理違反自体は極めて地味なものだ。3年前、インラックは国家警察本部長官を国家安全保障会議事務局長に起用し、警察本部長官の後任にはインラックの親族を就任させた。憲法裁判所は、これを縁故主義による不正な人事であるとし、選挙で選ばれた首相失職の正当な理由になり得るという判断を下した。
インラック陣営は、この裁判は司法クーデター以外の何物でもないと反論している。
今のタイでは、選挙で選ばれた首相や政党そのものを裁判所があっけないほど容易に追放し解散を命じられる。32年の立憲制定以降、82年間に18回ものクーデターを実行した悪名高いタイの軍部が最後にクーデターを起こしたのは06年。その軍が統治下で憲法を改正し、微罪でも裁判所が政治家を追放できるようにした。
軍と蜜月関係にある裁判所は、この権力を積極的に行使し、これで3人の首相が裁判で失職に追い込まれた。そのうちの1人で、テレビ番組でタイ料理を作りながら政治についてぼやいたサマックは、報酬を伴うテレビ出演が憲法で禁じられた「首相の兼業」に当たると見なされ、その座を追われた。
狙われるタクシン派首相
失職した首相には共通点がある。皆、タクシン元首相に忠実だったことだ。タクシンはインラックの実兄で、地方の労働者階級や農村の支援を受ける政治的なネットワークで影響力を持っている。このネットワークは00年代以降、すべての主要な選挙で支援する候補者を勝利に導き、タイを支配してきた王室や軍などの守旧派に揺さぶりをかけてきた。