中国富裕層の国外大脱出が始まった
お金持ちの約3分の2が既に国外移住済みか移住を計画中。教育や大気汚染以外のもう1つの理由とは
繁栄の陰で 経済成長の恩恵に最も浴しているはずの富裕層だが(北京) Kim Kyung-Hoon-Reuters
国や経済の先行きに不安を抱くアメリカ人が「カナダに移住してやる!」などと口にするのは、半ばお約束。しかし、実際にアメリカを出ていく人はめったにいない。
その点、中国人は違う。近年、特に富裕層の間で、より良い暮らしを求めて国外に移り住む人が増えている。最も人気のある移住先はアメリカだ。
中国の資産家393人を対象にした民間研究所「胡潤研究院」のレポートによれば、中国の富裕層(資産1000万元〔約1億7000万円〕以上)の64%が既に国外に移住したか、移住を計画している。また、超富裕層(資産1億元〔約17億円〕以上)の3分の1は、国外に拠点を持っているという。
子供を留学させたいと考える富裕層の割合も80%に上る。留学先としては、大学はアメリカが1番人気、高校はイギリスが1番人気、アメリカが2番人気だ。中国のエリートたちは、自国の硬直的な教育システムを評価していないのだ。
「裸官」たたきの影響も
それ以上に注目すべきなのは、アメリカの永住権を取得する中国人が増えていることだ。「投資永住権」(アメリカでの事業に100万ドル以上投資した人に与えられる)を取得した中国人の数は、10年は772人だったのが、12年はその8倍近い6124人に膨れ上がった。
なぜ、中国の経済的台頭の恩恵に最も浴しているはずの富裕層が国を出ていくのか。子供の教育以外の分かりやすい理由としては、環境汚染がある。深刻な大気汚染と水質の悪さに不満を述べる中国人は多い。
一方、表面に見えにくい理由もある。それは、政府が推し進める反汚職キャンペーンだ。習近平(シー・チンピン)国家主席の下、中国当局はこの1年、共産党の実力者を立て続けに汚職で摘発してきた。
習は先月、反汚職キャンペーンをさらに強化し、配偶者や子供を国外に住ませている人物──「裸官」と呼ばれる──の昇進禁止を打ち出した。国外の家族のために何かとお金の掛かる裸官は、特に汚職に走りやすいと見なされている。ある共産党当局者が国営・新華社通信に述べたところによれば、「経済犯罪の約40%、そのなかでも汚職と横領の80%近くに、裸官が関わっている」という。