「反中」台湾出身作家vs歌舞伎町案内人<2>
黄:今の中国は軍事力と経済力が突出しています。経済力が付くのはいいが、一方で格差も広がっている。政府の官僚が汚職で得たカネは海外に流出しています。この数字を見ると恐ろしく感じると思うのですが、ワシントンのシンクタンクの調べでは、中国から約4兆ドルが国外に逃避している。このカネは官僚のカネです。本来なら国民に分配されているべきカネです。
中国から流出しているのはカネだけではありません。ニューヨーク・タイムズ紙によれば2010年は50万8000人の中国人が海外に流出しました。彼らは経済難民ではなく、中国の環境悪化や社会道徳の乱れを嫌がって国を出て行くんです。これは中国だけで解決する問題ではない。世界全体を視野に置かないと。
李:今回、台湾と日本が尖閣周辺の漁業協定に合意しましたが、これはすばらしいこと。中国に対して「ケンカじゃなく、話し合いで解決できる」ということを示した、という意味でね。われわれ文化人も日本や中国を批判するだけじゃなく、アドバイスすべきです。私は常にそのことを考えている。
黄:アドバイスといいますが、中国だけを見ても基本的な部分で問題が多過ぎます。例えば習近平本人はおそらく戦争をしたくないでしょう。中国軍の陸軍も空軍もそうでしょう。ただ海軍には不満が多い。中国の軍事費は毎年2桁増を続けているが、海軍はこれまで十分その恩恵を受けて来なかったという思いがある。習近平が軍を掌握するのは実は難しい。
李:もちろん中国政府が何を考えているか、李小牧はまったく分かりません。私の言うことなんかもちろん聞かないだろうし。ただ私は日本にいて(マイクロブログの)微博で国民に向けて発信できる。これは政府にアドバイスするより有効。この間、日本政府と中国大使館に在日中国人の1人として平和提議書を提出しましたが、こういった小さなことを少しずつやって行くのが大事。私はデモには出ず、むしろ微博やコラムで発信していく。
そもそも友好になれば戦争をやらずに済み、その分の軍事費を国民に分配できる。そこが問題ですよ。(第3回へ続く)
『日本人が絶対に理解できない中国人と韓国人』(黄文雄著、徳間書店)(右)、『最強の
中国メディア 微博(ウェイボー)の衝撃』(李小牧・蔡成平著、阪急コミュニケーションズ)(左)
Kou Bunyu 黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業。明治大学大学院西洋経済史学修士。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が反響を呼び、評論家活動へ。1994年巫福文明評論賞、台湾ペンクラブ賞受賞。『日本人が知らない日本人の遺産』(青春出版社)など著書多数。近著に『日本人が絶対に理解できない中国人と韓国人』(徳間書店)がある。
Lee Xiaomu 李小牧(リー・シャム) 1960年中国湖南省生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て88年にデザインを学ぶ私費留学生として来日。歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動し始める。作家、レストラン『湖南菜館』プロデューサーとしても活躍。蔡成平氏との共著『最強の中国メディア 微博(ウェイボー)の衝撃』(阪急コミュニケーションズ刊)が2012年11月末に発売された。