渡航自由化、キューバの本音
「頭脳流出」の悪夢再び?
キューバの反カストロ派や反体制派はまだ懐疑的だが、首都ハバナの通りには歓喜の声と歓迎ムードが広がっている。「政府は国民に自由を返すため、前向きな措置を取っている」と、ハバナの出入国管理当局にパスポートの発行を申請したというロベルト・ペレスは話す。「われわれは長い間、自分の国の囚人だった」
海外への渡航を希望するキューバ人が増えるのはほぼ確実だが、大方の予想ほど劇的に増えるとは限らない。
まず、ハバナの外国大使館や領事館が喜んで大量のビザを発給するとは考えにくい。専門知識や技術のない人間や、生活の面倒を見てくれる親戚が海外にいない人間に対しては特にそうだ。
キューバは長年、キューバ人入国者には自動的に居住権を与えるアメリカの法律を渡航規制の口実に使ってきた。この措置が最初に導入された1961年当時は、キューバで国内最高レベルの教育を受けた専門職の多くがフィデル・カストロ前国家評議会議長の革命を逃れ、マイアミに脱出した。
今回の法改正でも、国内最高レベルの人材が高給を求めて海外へ移住することは制限されている。キューバ共産党の機関紙グランマは社説の中で、アメリカが医師などの亡命を促す政策を放棄しない限り、高レベル人材の渡航制限は今後も続くだろうと主張した。
「わが国からの『頭脳流出』を引き起こし、経済・社会・科学の発展に必要不可欠な人的資源を奪おうとする政策が続いている限り、キューバは自己防衛の措置を取らざるを得ない」
今回の新ルールは、医師やプロスポーツ選手、科学者、機密情報に触れる機会がある政府当局者などの個人的な海外渡航を全面的に禁止するものではないと、出入国管理当局のフラガ大佐は言った。「彼らは出国できないわけではない。しかるべき当局者の許可が要るというだけの話だ」
今回も、キューバが近年実施した多くの変革と同じく、政府当局者は改革が不測の事態を招いた場合にも対処できる余地を残している。例えば「必要不可欠な」人材の定義について、新法は当局に広範な裁量権を認めている。政府の各省庁では、今後も海外渡航に特別な許可が必要な職種のリスト作成作業に着手している。
だが、キューバ政府はこのような例外規定を設けることで、長期的なリスクを冒していることになる。職業のせいで個人の自由が制限されることが分かれば、戦略的な重要分野で専門知識や資格の取得を目指す若い世代の情熱が一気に冷めかねない。
さらに、政府が渡航規制を反体制派への弾圧の手段に使うのをやめると見る向きはほとんどない。新ルールによれば、あらゆるキューバ人は「公共の利益の見地から、指定された当局者の決定により」パスポートの発行を拒否される可能性がある。
それでも全体的に見て、今回の法改正が1つの賭けであることは確かだ。国民の出入国の自由を拡大すれば、出て行くことを選ぶ人間は増えるだろう。だがそれとは逆に、帰国を選択する人間も増えるはずだと、キューバ政府は考えている。
From GlobalPost.com特約
[2012年10月31日号掲載]